『俳句の動物たち』 船団の会(編)

俳句の動物たち

俳句の動物たち


動物が詠まれた俳句を集めた句集である。
各動物ごとに、見開き1ページのエッセイを添えて、俳句が五句ほど並ぶ。
『日本の動物たち』『虫たち』など、六つのグループ(?)に分けられているが、その一番最後が『人間たち』になっているのがユニークなところ。
(どこかの動物園で『世界一危険な動物』と看板が掲げられた檻があり、中には鏡がひとつ、こちらに向かって置かれている、という話を思いだした。)


俳句、どこから、どのように味わったらいいのかわからない私が、動物からなら、すうっと入っていけるかな、と手にとった句集です。
わたしのようなものでも、これ好き、と思える俳句をたくさんメモすることができた。


好きな句をほんの少しだけ書き写してみる。
  少年が犬に笛聴かせる月夜 (富田木歩)
  花びらを背にして泳ぐ河童かな (早瀬淳一)
  蒲公英に化けて吹かれる狐の子 (久留島元)
  鞍馬夕ぐれ野ねずみ火種を運びをり (若森京子)
  糸吐いて星捕まえる黄金蜘蛛 (富沢秀雄)
  なぜかここがいいなと人と蜥蜴来て (中原幸子
  あめんぼう水を掴んで瞑想す (北原武巳)
  すずめ来てルンバを踊る冬日向 (鶴濱節子)
  葉一枚が椋鳥となる魔法の木 (森弘則)
  泣きじゃくる赤ん坊薊の花になれ (篠原鳳作)


あめんぼうを漢字で水馬と書くことを初めて知った。姿を見たら、漢字で名前を呼ぼうと思う。好きになる。
エッセイで好きなのは、『犬』と『目白』 どちらも人と犬とが出てくる。犬がそこにいる(いた)ということがなんだか切なくなる。


巻末の、坪内稔典×池田澄子の対談のなかで、蚊を詠った句が二つあげられていた。
本文(?)のなかの『蚊』の章(?)でとりあげられた「蚊」の句よりも、ずっと印象に残った。二つの句は、春と冬の蚊の句。
真夏には苛立たしくて不快なやつだったが、季節はずれとなれば、なんともさびしく哀れに思え、こんなに印象が違うものか、と驚く。
  春の夜の蚊よ蚊にさぞや会いたけれ  (池田澄子
  冬の蚊のさびしさ大工ヨセフほど  (池田澄子