11月の読書

2015年11月の読書メーター
読んだ本の数:9冊
読んだページ数:2089ページ

忘れられた巨人忘れられた巨人感想
忘れの霧に包まれた旅は頼りなくて、この本を読む私もまた霧の中を手さぐりでさまよっているような気持になる。忘れさせられることで保たれる平安は本当に平安なのだろうか。人は不安に囚われているのではないか? 物語の中の霧が問いかけているように感じる。不安な平和を受け入れるか、(身を切られるほど辛くても)負の記憶も含めて過去を引き受けるか。
読了日:11月27日 著者:カズオイシグロ
日日雑記 (中公文庫)日日雑記 (中公文庫)感想
はるか天空の雲がぐるりと渡る様子を描写するのと同じように、街角の人びとのささやかな営みを描写する。同じように眺めさせてくれる。豪快で気持ちがいい。それでも、今度の本は寂しい。人びとも景色も、移り変わっていく。流れていく川の真ん中に立ってるみたい。あとがきの日付のちょうど一年後に武田百合子さんは亡くなる。寂しさの総仕上げのような読み終り。
読了日:11月25日 著者:武田百合子
ハーレムの闘う本屋ハーレムの闘う本屋感想
黒人としての自分を肯定するためには自分が何ものかを知る必要がある、という信念の元に始まったミショーの書店が、おそらく全米の黒人たちに及ぼした影響に驚嘆する。同時に、そういう人間が権力からどのような扱いを受けるかもよくわかった。ヒト事ではない。ミショーも、彼の書店も今はないけれど、彼の撒いた種はあちこちで育っている。いつかもっと大きくなる。
読了日:11月22日 著者:ヴォーンダ・ミショー・ネルソン
ぼくたちに翼があったころ コルチャック先生と107人の子どもたち (世界傑作童話シリーズ)ぼくたちに翼があったころ コルチャック先生と107人の子どもたち (世界傑作童話シリーズ)感想
このまま、楽しい学園物語(?)で終わればよかったのに。だが、そうならないことを最初から読者は知っている。書かれないページに、書かれたページのさまざまな場面が混ざり合い、たまらない。この施設があった事、日々が続いていた事は、奇跡のよう。惨く野蛮な時代に、光がさすように生まれ出るものがある。普通の人のあいだから。そういう人の存在を思う。
読了日:11月19日 著者:タミ・シェム=トヴ
見捨てられた初期被曝 (岩波科学ライブラリー)見捨てられた初期被曝 (岩波科学ライブラリー)感想
私にはとても難しく理解できたとはいえない。それでも、わかりたいと思って読んだ。権力者や専門家が巧に覆い隠そうとしても、ごまかそうとしても、動かない事実がある。巻末のコラムの、自身の闘病中に出会った癌と戦う子どもたちへの思いに打たれた。それがこの本の下敷にある。そして、見つめているのはこれからの子どもたちのことなのだ。
読了日:11月17日 著者:study2007
石井桃子集〈5〉新編 子どもの図書館石井桃子集〈5〉新編 子どもの図書館感想
図書館や文化は堅固そうだけれど油断したら、いつのまにか死んでしまう生き物なのだ、と最近気づいた。石井桃子さんの、どんなに時代が変わっても子どもに読書は必要なのだ、という考え方。その答えのような、現在の居心地のよい公立図書館の児童室(感謝)。本当に必要な子どもたちにこのシステムが届いているだろうか、とふと心配になる。どうか届いてほしい、と思う。
読了日:11月14日 著者:石井桃子
きいろいばけつ (あかね幼年どうわ (33))きいろいばけつ (あかね幼年どうわ (33))感想
この物語は、過去に自分自身の身の上に起きた少し悔しかったあれこれを思いださせる。そうして読み終えた時、そのあれこれの意味がすっかり変わるような気がする。変えることができたのだ、と気がつく。それは、最初にこうなるだろうと期待していた「物語」よりも、はるかによいものだった。ばけつときつねの子をまとめて抱きしめて頬ずりしたくなる。
読了日:11月12日 著者:もりやまみやこ
あの日とおなじ空 (文研ブックランド)あの日とおなじ空 (文研ブックランド)感想
マブイの話が心に残る。戦争をやりたがる権力者は兵隊たちのマブイがさぞ邪魔なことだろう。見えない不思議を見えないまま信じることがマブイを手放さずにすむ大きな鍵になっているように思う。沢山のひいばあちゃんが重たい記憶を抱いて、今もまだ苦しんでいるのではないか。「おまえたちは、空に、美しいものを見せてやっておくれ」という言葉を忘れないでいようと思う。
読了日:11月10日 著者:安田夏菜
ムシェ 小さな英雄の物語 (エクス・リブリス)ムシェ 小さな英雄の物語 (エクス・リブリス)感想
時代に翻弄されつつ信念を貫こうとした男と、彼のかけがえのない人々。彼らの苦しんだ日々、遺された日々、その長い時間の一刻一刻が「英雄」だったのではないか、と思える。そして、最初から私には影が薄く思えたあの人の人生が、遠いどこかで地道に続いていたことを不思議に思い、そのことが物語を照らす灯のように思えてくる。伝記ではなく物語。物語の力への確かな信頼。
読了日:11月9日 著者:キルメン・ウリベ

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