10月の読書

2015年10月の読書メーター
読んだ本の数:16冊
読んだページ数:3957ページ

走れ、風のように走れ、風のように感想
人の都合で運命に翻弄される犬が、その都度、信頼できる飼い主に巡り合えたのは幸運というよりも、彼の気だての良さのせいだろう。動物が人に与えてくれる力は、なんと計り知れないものだろう。その一方で、人間の都合で動物を利用したり処分したり、身勝手さ、残酷さがたまらない。また、権力に蹂躙される小さな人びとが明るい温かいものを湛えて立ちあがる姿にも打たれた。
読了日:10月30日 著者:マイケルモーパーゴ
みずうみにきえた村みずうみにきえた村感想
増山たづ子 すべて写真になる日まで』を読んだ時にこの絵本を教えてもらいました(ありがとうございました) 美しい村の風景はそこに暮らす人々の生活そのもの。村の生活が破壊されていく様子を描いた絵さえ牧歌的で静か(ひたひたと伝わる喪失感、やりきれなさ) しかし、最後の湖の上の時間が本当に素晴らしい。過去と現在とが、静かに混ざり合っていくのを感じている。
読了日:10月28日 著者:ジェーンヨーレン
夢果つる街 (角川文庫)夢果つる街 (角川文庫)感想
『パールストリートのクレイジー女たち』を読まなければ、この本、手に取ったとしても、この本の(この街の)ささやかな輝き、独特の美しさに、私はきっと気がつくことができなかっただろう。物語はミステリだったけれど、ほんとに読んだのは町の地図だった。そして、各地区に住む、たぶんこの本の余白に生きる、まだ紹介されてもいない人々のささやかな物語だった。
読了日:10月25日 著者:トレヴェニアン
角野栄子さんと子どもの本の話をしよう角野栄子さんと子どもの本の話をしよう感想
「言葉」の豊かな広がりを示してもらって、わくわくした。扉・門の話、オノマトペの豊かな世界が心に残る。一方で「いまの日本で使われている言葉が、これからどう変わっていくか、注意深く見たほうがいい」という言葉を心に留める。時間に限りあるライブ形式の鼎談ということで、本当はもう少し詳しく語ってほしい話題がさらりと終わってしまったことがちょっと寂しかった。
読了日:10月24日 著者:角野栄子,高楼方子,富安陽子,荒井良二,金原瑞人,ひこ・田中,令丈ヒロ子,あべ弘士,穂村弘
ティンブクトゥ (新潮文庫)ティンブクトゥ (新潮文庫)感想
なんと寂しい世界なのだろう。寒々と冷たい世界に放り出されているのは犬ばかりではない。温かい家も家族も持った人たちが、ばらばらに、自分の内部の寒さと闘っていた。ひとの集まる町が、まるで深い森のような暗さと冷たさでせまってくるようで、人びとがどんなに孤独な存在であるかを強く意識させられてしまう。
読了日:10月21日 著者:ポールオースター
平凡 (青空文庫POD(ポケット版))平凡 (青空文庫POD(ポケット版))感想
主人公が少年のころに飼っていた犬の件が読みたくて。毎日学校に迎えにくる子犬は、まるで弟のよう。現在より自由な分「しょせん犬、たかが犬」という考え方が一般的だっただろう。辛かった。最後にでてきた文学への批判は厳しい。その一方で「そんなはずはないだろう、しっかりしろ文学界」との呼びかけのようにも感じられるのだけれど、甘いのかな。どうなのだろう。
読了日:10月18日 著者:二葉亭四迷
原発事故で、生きものたちに何がおこったか。原発事故で、生きものたちに何がおこったか。感想
豊富な写真をただ見れば、美しい里山の姿。でも、どの光景も、傍からはわからないが、ヒトが抜けたために、あるいはヒトがやらかしたことのせいで、あっというまに、とりかえしがつかないほどに何もかもが変わってしまった。元に戻すことができないなら、今、いったい何ができるのだろう。まず立ち止まり、この光景と向かい合わなければと思う。
読了日:10月17日 著者:永幡嘉之
岸辺のヤービ (福音館創作童話シリーズ)岸辺のヤービ (福音館創作童話シリーズ)感想
この愛おしい物語は、静かに、深刻な問題を投げかけている。とはいうものの、こちらの肩をつかんで強くゆすぶるようなことはしない。そのぶん、なんだか、とても寂しいところに(寂しくて美しいところに)ぽつんと置いていかれたような気がする。置いていかれた感を大切に味わいたいと思う。「世界はなんてすばらしいんでしょう」という言葉を反芻しながら。
読了日:10月16日 著者:梨木香歩
銀のほのおの国 (福音館文庫 物語)銀のほのおの国 (福音館文庫 物語)感想
次々思いがけない事態が起こり、目を離すことができない。一方で、物語の情け容赦ないことに驚いている。「だれがきめたんだ。食べなきゃ生きられないってことを」「青イヌが食う肉とおまえさまが食う肉と、どこどうちがうか、わかるか」読了後も、重たい課題を背負わされたようで心は軽くならない。一度始まった物語は終わらない。考えることをやめることはできない。
読了日:10月14日 著者:神沢利子
増山たづ子 すべて写真になる日まで増山たづ子 すべて写真になる日まで感想
「残しておきたいという気持ちは、あきらめからきてるもんだな」という。けれども、たづ子さんの「あきらめ」という言葉は、絶望とは違うような気がする。あるいは「あきらめ」ということは、抵抗以上の大きな大きな何かなんじゃないか、と思えてくる。たづ子さんは椿の花が好きだ。「ツバキはな、こやってポロッと落ちてもな、下へ向いて笑っとるの」という言葉が心に残る。
読了日:10月11日 著者:増山たづ子
パールストリートのクレイジー女たちパールストリートのクレイジー女たち感想
あまりに絶望的な、暗くてみじめな日々…であるのに、私は、この本を読んでいる間不謹慎にもずっと幸せだった。文章はユーモアに満ちている。クレイジーなご近所に囲まれて、右往左往する主人公の日常がとても好き。彼の子ども時代は第二次世界大戦の中にあって、戦争の終焉とともに、大人へと足を踏み出す。戦争の正体、人から何を奪ったか、子どもはしっかり見届けていた。
読了日:10月9日 著者:トレヴェニアン
歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)感想
真っ直ぐに伸びた道の途上で、思わずふりむいてしまったために、曲がりくねった側道に導かれ、または袋小路に誘い込まされ、見るはずのない光景を見ることになってしまったような不思議。考えてみれば、現実の世界こそ不気味で恐ろしい。何か欺かれているような気がする。だから、魅せられる。架空の世界の、架空の華やぎと妖しさの方が、現実よりも確かな物に見えたりする。
読了日:10月7日 著者:呉明益
宮沢賢治「旭川。」より宮沢賢治「旭川。」より感想
これまでのことにも、これから先のことにも、繋がらない、まるでエアポケットのような一日があったらいい、と思う。この軽やかさ、楽しさは、そういうどこにも繋がらない、どこかにふと降り立った異邦人の軽さだ。一方で、頭の上にあるのは、空。上って下りて、を繰り返すオオジシギが二つの世界をつないでいる感じがよい。
読了日:10月5日 著者:あべ弘士
詩集 小さなユリと詩集 小さなユリとの感想
見つめる光景が美しければ美しいほど、開放的であれば開放的であるほど、静かであれば静かであるほど、空気のなかに、その反対の胸の内がしみわたっていくようだ。客観的に見たって辛い時期の詩じゃないか。弱音を吐いたっていいじゃないか。そう思いながら、どうしようもない弱さを自嘲的に歌う人の見る美しい影にむかって、よいしょ、と子どもを抱きあげたくなる。
読了日:10月4日 著者:黒田三郎
ハラスのいた日々 (文春文庫)ハラスのいた日々 (文春文庫)感想
著者夫婦と愛犬ハラスの日々に、深く共感したり感動したりしてしまうのは、時代が変わっても、決して変わらないものがあることを教えられるからだ。犬たちは、あるがままを受け入れて、足りてくれて、ただ夢中で人を慕って呉れる。その姿に、ときどき申し訳ないような気持ちになる。今、私のそばにいてくれる犬に、ただただ、ありがとう、と思う。
読了日:10月3日 著者:中野孝次
オルフェオオルフェオ感想
彼は何を極めようとしたのだろう、彼の音楽は何だったのだろう。音楽は必ずしも音の出るものである必要はないのだろう。化学実験室で音楽が生まれるなら、物語も音楽になるにちがいない。だけど、ずっと得体の知れない怪物を追いかけているような読書だった。でも、その怪物の心臓に何があるか知らされたとき、やっと私にも音楽として聞こえた。美しいと思った。
読了日:10月1日 著者:リチャードパワーズ

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