9月の読書

2015年9月の読書メーター
読んだ本の数:14冊
読んだページ数:3167ページ

むだ話、薬にまさる (大人の本棚)むだ話、薬にまさる (大人の本棚)感想
ゆっくりと暮らす定年退職後の著者の暮らし。ときどき皮肉な文章にむむっとすることもあるけれど、おおむね、人の良さそうなご隠居さんの顔が思い浮かんできて、腹をたてるのはやめよう、と思う。控え目な感じだけれど、話せばかなりのインテリさん。ゆったり流れる時間が好き。ゆったりの中での出会いや別れ、会話が好き。
読了日:9月29日 著者:早川良一郎,池内紀
トンネルの森 1945トンネルの森 1945感想
「戦争が終わったよ」で物語は終わる。イコちゃんのマネをして私も言う。どうせ終わるなら、みんなが元気なうちに終わってほしかった、と。だれ一人も死なないうちに終わってほしかった。トンネルの森はイコちゃんの家を出たところにある森の道。イコちゃんの心を写す鏡のよう。暗くて深い森にはいろいろな物が潜む。おどろおどろしい反面、豊かさをたたえた森でもあった。
読了日:9月27日 著者:角野栄子
アフリカの日々 (ディネーセン・コレクション 1)アフリカの日々 (ディネーセン・コレクション 1)感想
今この場所から遠く隔たったゆっくり流れる時間に、つかのまではあったけれど身をおかせてもらい、遠い地平線のかなたで、沈みかけた夕陽の中で揺れながら眩しく輝いている…そういうあれこれを目をこらして眺めているような読書。それを語る言葉から毅然としてたちあがってくるのは著者の姿。彼女のアフリカも、彼女自身も、静かで、なんて美しい。
読了日:9月26日 著者:アイザック・ディネーセン
青矢号―おもちゃの夜行列車 (岩波少年文庫)青矢号―おもちゃの夜行列車 (岩波少年文庫)感想
種も仕掛けもあるものを最初から夢などとは呼ばない。だから、形だけの「夢」などは最初にお引き取り願おう、ということかな、とペファーナの姿に思う。おもちゃたちは本当は何物であっただろう。嘗て子どもと一緒にサンタを待った。サンタクロースが子どもに届けようとしたものは本当は何だったか、と思いだしている。松岡享子『サンタクロースの部屋』の一節を思いながら。
読了日:9月23日 著者:ジャンニ・ロダーリ
あなたを選んでくれるもの (新潮クレスト・ブックス)あなたを選んでくれるもの (新潮クレスト・ブックス)感想
小銭をちゃらちゃら数えるような、砂を噛むようなところから始まった。なんというインタビューだ。相手に対する辛辣であけすけな総括に、時々ハラハラする。しかし、著者が辛辣に評すれば評するほど、相手のエネルギーに圧倒されていく。それはどんどん膨らんでくる。ラストに向かって、わたし自身にとっても大切な物語に変わっていく。感謝。
読了日:9月21日 著者:ミランダジュライ
旅のスケッチ: トーベ・ヤンソン初期短篇集 (単行本)旅のスケッチ: トーベ・ヤンソン初期短篇集 (単行本)感想
デビュー作はじめ、ヤンソン二十代の作品集。旅行者の目で町を、人を見まわし、自分自身を醒めた目で(ときには痛烈な皮肉をこめて)見つめているように思える。自信と自尊心と自虐と、そして、孤高であろうとする、繊細で寂しがりやの若い画学生の姿が見えるような気がする。訳者あとがきに書かれている若いヤンソンの足跡が興味深く、この本の各作品の主人公たちと重なる。
読了日:9月17日 著者:トーベヤンソン
犬 (中公文庫)犬 (中公文庫)感想
10人の作家のアンソロジー。今の人間と犬の関係に比べ、昭和前期の犬と人の関係には、どきっとする場面も多いのだけれど、嫌な感じよりも、むしろ時代のおおらかさを感じた。12の犬の物語の犬が意味するものは様々。犬の向こうに透けて見える物。犬に自分自身を投影した物。犬への思いを綴った物。幸田文の『あか』が一番好き。あとがきのような『ゆっくり犬』もよかった。
読了日:9月14日 著者:幸田文,川端康成,志賀直哉,伊藤整,長谷川如是閑,網野菊,林芙美子,阿部知二,徳川夢聲
犬の人生 (中公文庫)犬の人生 (中公文庫)感想
思わせぶりに始まった物語は、拍子抜けするほど何事も起こらず、どこにも繋がらずに終わってしまう。不思議はすでに不思議ではなくなっている。狂気かも、妄想かも、とも思わなくなる。突拍子もないことが起きても突拍子もない、なんて思わない、それは、いつのまにか平凡なことに思われてくる。だけど、ちらっと感じる懐かしさみたいなものはどこからくるのだろう。
読了日:9月13日 著者:マークストランド
エドワード・アーディゾーニ―若き日の自伝エドワード・アーディゾーニ―若き日の自伝感想
屋内では厳しく育てられながら、野外ではこれ以上ないほどに伸びやかに育った子ども時代が羨ましい。師の誰もが彼の画家としての資質を買っていたわけではなかった。何が才能で、何が成功かわからないけれど、世界中に彼のファンはいる。チムのシリーズは世界中の子に大切に読まれ、ファージョンの沢山の物語はアーディゾーニの絵と一緒に思いだされる。
読了日:9月10日 著者:エドワードアーディゾーニ
駅前旅館 (新潮文庫)駅前旅館 (新潮文庫)感想
読みながら、子どもの頃のことを思いだす。私たちの町にも、小さな旅館があった。木の枠にガラスが嵌った引き戸は、たいてい閉まっていた。ガラス越しに外から見える、スリッパが並んだ広い板敷。旅館の脇の路地で遊ぶと、厨房から旅館独特の料理の匂いがした。私たちの家の台所の匂いとは全然違う、取り澄ました感じのおいしそうな匂いだったことなどを思い出す。
読了日:9月9日 著者:井伏鱒二
いちべついらい 田村和子さんのこといちべついらい 田村和子さんのこと感想
著者と和子さんの間にあるバランスの微妙さにどきどき。お互いを頼り、お互いを少しずつ浸食してもいるのに、お互いの一番美しいところを大切に享受しあっているような、どこまでも身を削られても、それ以上の歓びを得られるような関係、だったのではないか。このタイトル、田村和子さん死去から二年を経て、著者から、亡き和子さんへの「いちべついらい」の挨拶だったかな。
読了日:9月7日 著者:橋口幸子
子どもと子どもの本のために (同時代ライブラリー (305))子どもと子どもの本のために (同時代ライブラリー (305))感想
子どものころのことを忘れないように。それは、何が本物で、何がにせ物であるか、何が善く、何が悪いかを、とっさに知ること。石井桃子の言葉「おとなになってから老人になってからあなたを支えてくれるのは子ども時代の「あなた」です」が重なる。本を焼く下劣さ。本を焼くものは人も焼くという言葉。ふと思う。文学や文学を学ぶことを蔑にする国はどこに向かうのだろうか。
読了日:9月5日 著者:E.ケストナー
マザーランドの月 (SUPER!YA)マザーランドの月 (SUPER!YA)感想
過去のコピーというより自分たちの未来では、と思うと二重に恐ろしかった。自ら考えることができなくなった人の群れをさらに騙すには、仕掛けがお粗末な茶番劇がよいのだろう。自分にできる簡単なことができない人は他のこともできないのではないか、という人の思惑を利用しつつ、自分の素晴らしいものを手放さない主人公。読み進める毎にその姿が大きくなっていくようだ。
読了日:9月3日 著者:サリーガードナー
たんたのたんけん (新しい日本の幼年童話 1)たんたのたんけん (新しい日本の幼年童話 1)感想
子どもと楽しんだ本を手に取ると、当時のあれこれが思いだされる。何枚も描かれたカラフルな地図。果物型のキャンディは苺のだけがすぐなくなった。お手製の地図を片手に、わざわざ道から外れたところ(土手の斜面)を這い登っていた。地図の上で、よく知って居るはずの小さな世界が、不思議の国に変わっていく。私はそれを眺めるのが大好きだった。
読了日:9月1日 著者:中川李枝子

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