『夜が来ると』 フィオナ・マクファーレン

夜が来ると

夜が来ると


怖い話だったよ・・・


海辺の別荘で一人気ままに暮らす老女ルースのもとに、自治体から派遣されたというヘルパーのフリーダがやってくる。
強引で親切で、魅惑的なフリーダは、どんどんルースの生活を支配し始める。
ずるずるとフリーダの庇護のもと、心地良さと引き換えに自由と尊厳とを失くしていくルース、このもやもやとした気持ち悪さはいったいどこまでいくのだろう、と思う。
ああ、なぜそこでそれを手放すか、なぜそれ以上追及しないのか、と半分イライラしながら、歳をとり、記憶も気力も曖昧、散漫になっていく老女の心情が、こちらの気力をも削りとっていくようだ。砂の山がさらさらと崩れるように。


代わりに、鮮やかによみがえってくるのが、ルースの少女時代の記憶である。
宣教師の父母とともに暮らしたフィジー、そして、蘇る初恋。
同時代の同国人の若者と離れ、特殊な環境で育ったルースは、自らを自らの内側に抑え込み、その状態での満足と幸福とを感じようとすることに慣れているみたいだ。
控え目で優しい人、と思っていたが、同時に、いらいらして、その穏やかさが気持ち悪くなってきた。


フリーダの魅力的なことはどうだろう。
恐ろしい人だ、と思いつつ、いつのまにかルースの傍らに立ち、いっしょになって彼女の笑顔を見たい、と作り笑いを浮かべている自分に気がついたりする。
秘密の多い人は、魅力的である。危険だ、と思いつつ、その人がらの奥からにじみ出る何か別種なものに、すがりたくなってしまう。
真綿で首を絞めるようにじわりじわりと迫ってくるスリリングな世界のなかで、二人の女の間にひらりと現れる不思議なバランスが愛おしくさえ思える。片や捕獲者、片や獲物、という関係なのに。
それが、この物語の一つの魅力だろうか。


虎っていったいなんだったのだろう。本当にいるのかいないのか。
いるわけないじゃない、と言いきれないように思ってしまう、この感覚も含めて、目に見えない虎の存在が、読書中絶えず、行間から、こちらにのしかかってくるようだった。
不気味でおそろしく、魅惑的で美しい虎に惹きつけられる・・・