『ひみつの白い石』 グンネル・リンデ

ひみつの白い石

ひみつの白い石


フィアが「あたしのお守りなの」というそれは、ただ石ころひとつ。
でも、その石ころは「まっ白ですべすべしてて、やさしい石なんだから」
石ころが「やさしい石」に思えるほどに大切にされたら、やっぱりそれは、ただの石ではない。
わたしだってそんな石を持って居たい、と思う。いいや、遠いいつか、わたしも持っていたはずだ。
この石をめぐって、少女フィアと少年ハンプスの物語が始まるのだ。


特別の石(秘密の石)。二人交互に難題を出し合う秘密の冒険。
サーカスが来ている。夜の闇の中を自転車で駆け抜ける。菩提樹の木の上が約束の場所。
子どもたちが裸足で過ごす夏休み(何も起こらなくても、一日じゅう裸足でいられる夏がある、というだけで幸せになれるじゃないか)


二人ともそれぞれに現実の自分が好きではない(それぞれに情けない思いをしている)けれど、二人だけの時には別のだれかになれるのだ。
作者も、そういう二人の気持ちに寄り添う。
二人が二人で会うとき、二人がそれぞれの約束の冒険をするとき、主人公二人の名は、フィアでもハンプスでもなくなる。
そうして、読者も二人の秘密の分け前にちゃんと預かっていられる。


冒険が終わり、すべてを正直に話してなお、理解できない大人に対して、作者は「救いようがないほど、おとなになってしまった」ことを「かわいそう」とうたう。
でも、この人は本当は、そんなに救いようがない大人ではないのだ。
自分が、ちゃんと事態の顛末を一切合切聞いても、(自分には)どうにもよくわからないものがあることを認めているのだから。それでよし、としているのだから。
子どもたちに、大人の目の届かない「ヒミツキチ」があること(精神的にも、物質的にも)をそっとして置ける人なんだ、と思う。
それは「裸足」と同じくらいに気持ちのよいものだった。