『カンディード』 ヴォルテール

カンディード (1956年) (岩波文庫)

カンディード (1956年) (岩波文庫)


若者カンディードは、ドイツの美しいお城で育つが、あるとき、姫君と衝立の陰にいるところをみつかり、城を追放されてしまう。
人生は変転し、世界各地を放浪し、あちこちでとんでもない苦難に次から次へと見舞われながらも、愛する姫君への思慕を支えに乗り越えていく。
カンディードは、まれに見るまっすぐでやさしい気性、天真爛漫な若者。
彼が支えにするのは、若い時に師事した哲学者バングロスの「この世のすべては必然的に結ばれており、申分のないようにできている」との教え。


しかし、申分ないはずの世の中は欺瞞と暴力に満ちている。行く先々で目にする惨状。
そして次々に襲いくる不幸は、自分の血を流すだけではなかった。自分の手で人の命も奪ってしまうのだ。
それでもなお、「申分ない」と信じ続けるおめでたさ、若い日の教育の賜物、そのゆるがなさに、恐れ入ってしまう。
いったいどこに神の意志があるのか、摂理があるのか、読めば読むほどに、人の世の暗さと抜け目なさに驚くばかり。


物語はすごいスピードでびゅんびゅんと飛んで行く。
「そんなばかな」と思うような逢瀬があったり、別れがあったり、なんと乱暴なこと。なんと忙しいこと。
そのはるか上の方、地上おそらく10メートルくらい高いところをふわふわ漂っていくお坊ちゃんのなんと滑稽なことだろう。
自分の頭で考えることができるようになるのはいつなのか。なんと遠い道だろう。