五月の読書

2015年5月の読書メーター
読んだ本の数:9冊
読んだページ数:2073ページ

リンドグレーンと少女サラ――秘密の往復書簡リンドグレーンと少女サラ――秘密の往復書簡感想
サラの手紙を読んでいると、その奔放な自由さに目が眩む。その感性がとらえた言葉たちに魅せられる。まるで一つの完成した(野性味あふれた)文学のようで、リンドグレーンの友情のこもった手紙たちの光を凌いでさえいる。リンドグレーンの手紙は、サラを助けたが、リンドグレーンもサラに助けられていた。二つの豊かで寂しい心が深い部分で、理解し呼び合っているようだ。
読了日:5月30日 著者:アストリッド・リンドグレーン,サラ・シュワルト
もうすぐ雨に(「国語三 上/わかば」光村図書)もうすぐ雨に(「国語三 上/わかば」光村図書)感想
朽木祥さんの『もうすぐ雨に』を読む。この物語を読むことは、音楽を聴くことに似ている。魔法の始めは静かに、そして、少しずついろいろな声が合わさって変化して、やがて、みんな声を合わせて歌い始める。鈴の音が、良い感じに間に入って、涼し気に響く。すっと音楽が遠のいたあとは、雨上がりの気持ちのよさ。
読了日:5月28日 著者:
予兆の島 (1981年)予兆の島 (1981年)感想
ジェラルド・ダレルの『鳥とけものと家族たち』と、ロレンス・ダレルの『予兆の島』。ダレル兄弟二人の本を読めてよかった。それぞれ、思い出のもっとも輝かしいものを大切に切り抜いている。それぞれの方法で。私は彼らの切り抜き帳を見せてもらっている。それがどんなに大切なものであるか、その思いの深さに打たれながら、もっともっと、もっと見せてよと、せがんでいる。
読了日:5月24日 著者:ロレンス・ダレル
きみは知らないほうがいい (文研じゅべにーる)きみは知らないほうがいい (文研じゅべにーる)感想
「そういういい方をしちゃだめなんだ。そういうふうに、ひとまとめにする言葉は乱暴なんだよ、すごく」ひとまとめにした言葉には、ひとまとめにした解説をしたくなってしまうのだ。たとえば、「逃げていいんだよ」とか・・・それはとても優しい言葉に聞こえて、その言葉がとても乱暴だ、ということに気がつかなくなってしまう。繊細で鋭い言葉の連なりが、心に響く。
読了日:5月20日 著者:岩瀬成子
リフカの旅リフカの旅感想
深く印象に残るのは、「好ましからざる移民」というレッテルのもとに「選別」される理不尽さ。後ろに下がれば殺されるしかない人たちをなぜ。主人公の少女が、目的地を「逃げるための場所」から「新しい人生を始める場所」と考えるようになる時の眩しさ。彼女の綴る言葉が記録から詩の創作へと変わることと重なる。言葉の偉大な力に心動かされる。
読了日:5月17日 著者:カレン・ヘス
最後の注文 (新潮クレスト・ブックス)最後の注文 (新潮クレスト・ブックス)感想
いつか、だれもが、海に散る、あの灰と混じりあう日がくるのだ。それだけは確かだ。それまできっと彼らは、そしてわたしも、小さな壺の入った袋を抱えて、あの車の助手席にすわっているのかもしれない。家でも無く、目的地でもない、その間の時間を。そのなかほどのどこかで、何が起こるかもわからないのだ。
読了日:5月14日 著者:グレアム・スウィフト
かないくん (ほぼにちの絵本)かないくん (ほぼにちの絵本)感想
「死を重々しく考えたくない、かと言って軽々しく考えたくもない」という言葉に共感しつつ、でも、それはどういうことなのだろう、と考えている。「始まった」という言葉がリアルに響く。「始まった」という言葉を反芻しながら、もう会うことのできない人たちの顔を穏やかな気持ちで思い浮かべている。ゲレンデの雪の重なりが深い色になって、心に静かに沁み渡る。
読了日:5月10日 著者:谷川俊太郎
地下室のパンサー地下室のパンサー感想
イスラエル建国前夜。一つの時代の終焉とはじまりとが、主人公の子供時代の終焉に重なる。いずこの子供も変わらないや、と既視感を感じる12歳らしさに絡まってくるのは、彼らの民族と社会とが対面する過酷な現実。否応なしに影響されずにいられない周辺の独特の事情・予感に圧倒される。考え、悩み、揺れつつ大人に変貌していく少年の気持ちを丁寧になぞっていく。
読了日:5月6日 著者:アモス・オズ
ドクター・ヘリオットの生きものたちよドクター・ヘリオットの生きものたちよ感想
ヨークシャーの自然の美しさを背景にして、円熟期を迎えたヘリオット先生の日々は、忙しくも穏やかに過ぎていく。ときには気持ちが良いとはお世辞にも言えない人に出会ったり、事件が起こったりもするのだけれど、過ぎてしまえば笑い話。思えば、それもこれも生活のほどよい刺激だったのかもしれない。人にも獣にも変わらない開かれた親しみは、希望に繋がっているようだ。
読了日:5月3日 著者:ジェイムズヘリオット

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