『もうすぐ雨に』 朽木祥 (光村図書:国語小三教科書「わかば(上)」より)

ぼくが学校へ出かけようとしたとき、あみ戸とまどガラスの間の、細いすきまにはさまれた小さなかえるをみつけたことから、物語は始まった。
不思議なことが起こります。


朽木祥さんの物語を読むことは、音楽を聴いているみたいだ。
始めは小さな声で静かに、そして、少しずついろいろな声が合わさって変化して、やがて、みんな声を合わせて歌い始める。
鈴の音が、良い感じに間に入って、涼し気に響く。
すっと音楽が遠のいたあとは、雨上がりの気持ちのよさだ。


タイトルの『もうすぐ雨に』という言葉は、物語のなかに何度もあらわれる。
あらわれるたびに、「雨、本当に降るの、いつ降るの」と思う。雨が降る前の、ちょっとざわざわした気持ちで。
降ったら困るなあ、と思いながら、一方で、空気が変わることへの得体のしれないワクワクも感じている。期待している。
たっぷりざわざわ気分を味わった後にざあっと降る雨は気持ちがいい。
雨の前に用事がすんでもすまなくても、おお、おお、ついにきたねえ、と、雨を楽しんでいる。みんな歌っているような気がするよ。


小さな生き物には、人には思いもよらない不思議な力がきっとあるような気がする。
それはファンタジーと似ている。
そして、そのファンタジーを現実の生活の中で、敏感にとらえるのは、子どもだ。
ささやかなファンタジーは、時とともに、本当にあったことかどうかわからなくなってしまうかもしれない。
忘れてしまうかもしれない。
でも、きっと心の奥の、自分でも気がつかないところに何かが残っているはずだ。
忘れても、ほんとは忘れていない。


「ぼく」は、どんな子だろう。
「ぼく」は、もしかしたら、別の場面では、小さな生き物を追いかけたり捕まえたりすることもあるのかもしれない。
そういう「ぼく」が、また別の場面で、困っているかえるを見た時、なんとかしてやりたい、と心から願うのだ。
うまく言えないけれど、そういう「ぼく」がいいな、と思っている。