『ゆうぐれ』 ユリ・シュルヴィッツ

ゆうぐれ

ゆうぐれ


「わーい。よるもきらきらしてるんだね」という男の子の言葉に、やっと気がついた。
ああ、クリスマスだ。
この絵本がクリスマスの絵本だったなんて、このときまで、わたしは思い至らなかった。なんという迂闊者だろう。
クリスマスだと知れば、名残の夕陽は、これから始まる美しい夜を約束しているようにも思えてくる。
この特別な日のゆうがた、忙しい人びとの脇でゆっくりと散歩していた二人と一匹も、何か特別な存在に思えてくる。
もしかしたら、彼らは天使かもしれない。


「おひさまがしずむと、さびしくなるね」と男の子は言う。
うん・・・。
日没が美しければ美しいほど、お日様との別れは寂しいし、ちょっと不安にもなるものだ。
だけど、良き日の終わりは、良き夜の始まり。
ひとつひとつ点っていく街灯は、まるで昼と夜の交代の儀式のように思える。昼と夜の間に籠る寂しさや不安を溶かしていく。


夜の町の明るさは、人びとがともす灯りだ。
人びとが互いに寄り添い合って暮らしていることを確認させてくれる。
あの夕方の町を急いでいた人たち、みんな誰か大切な人を喜ばせたくて、忙しくしていたんだったな、と思いだす。
まったく言葉のわからない「わくせいザダプラトからやってきたひと」だって、だれか故郷の大切な人のことを考えていたんだろう。
人がいるっていいものだ。だれかのために灯りを掲げられるって喜ばしいものだ。美しいものだ。


思い出したフレーズがある。ローラ・インガルス・ワイルダーの『プラム・クリークの土手で』(恩地三保子訳/岩波書店)から。
>「もし、だれもかれもが、いつでも、ほかの人みんなのしあわせを願っていたら、いつでもクリスマスなの?」
 ローラがきくと、かあさんは言いました。「そうですよ、ローラ」