『ある青春』 パトリック・モディアノ

ある青春 (白水uブックス)

ある青春 (白水uブックス)


孤独な若者が恋人と二人、肩を寄せ合って、暗くて寒い街路に立っているイメージだ。
心細く、互いにしがみつきあうように。
疑問を感じつつ、不安を感じつつ、依存の深みに嵌っていく素朴な若者の姿に、いらだつ。
庇護され利用され、それをうすうす(いや、かなりはっきりと?)感じながら、そこから抜けられない。
抜けられないまま、妙なきまじめさで、しっかり振り回されているのが、やりきれないと思う。
そうしなければならない理由は何もないのに、自分から縛りの外へ出られないのはなぜなのだろう。

>だが、慣れとともに、いつか人は何事も疑問に思わなくなるものだ。
・・・分かるような気がする。やりきれない、やりきれない。
と思いながら、最初に出てきた、後年の二人の平和な暮らしの情景を振り返っては思いだしている。そういう未来が二人の前にはあるのだ。と思いながら読む。
でも、その未来に、どうして、この若い日の暗がりが繋がっていくのだろう・・・


>しばらく前から彼は、この部屋の中で、かつて学校や軍隊で感じたあの同じ隷属感、窒息感を覚えつつあった。月日が重なり、やがて人はおまえはそこで何をしているのか、と自分に問うてみる。果てもなく囚われの身であり続けるのだろうか、と頭をかしげてみる。
誰も彼を囚えてはいない。彼の周りに格子はないし、鎖もないのに。
思えば、ここまで極端ではなくても、この閉塞感は、一部、覚えがありはしないか。
やりきれない、と思うのは、そこに自分のなにがしかの影が見えるから。
不快でありながら、美しい言葉で綴られた場面に、ふっと郷愁めいた切なさを感じるのもそういうわけなのかも。
ただ、「出発」をじりじりしながら待っていた。


大人たちも大人ではなかった。
いくつになっても大人にならない大人がいる。
際限もなくつづく青春期はちっとも素敵じゃない。どちらかといえば惨めじゃないか。
そうやって、嘆息してしまう自分が、なんだか一気に歳をとったように感じる。