『蒼路の旅人』 上橋菜穂子

蒼路の旅人 (新潮文庫)

蒼路の旅人 (新潮文庫)


このシリーズ各巻の巻頭に地図がついています。
一巻目の『精霊の守り人』には新ヨゴ皇国の都光扇京の地図、それが巻を追うごとに、隣国、周辺の国、世界へと地図は広がる。
地図が広がるごとに、物語も大きくなっていく。
そして、今まで読んできた各巻さまざまな国の物語の事情がさらにからみあいながら、この世界ができあがっているのだ、ということがみえてくる。
終わったはずの物語も始まりであろうし、消えてしまったかにみえたあれこれも、本当はそうではないのかもしれない。
この物語のなかでタルシュ帝国のラスグ王子とチャグムとが、一つの地図を見ている場面があった。
二人、同じ地図を見ながらそこから考えることは、何と違うことだろう。


のど元に匕首をつきつけられて、選択を迫られる。どちらの道を選んでも浮かぶ瀬はない。
振り返っても暗い谷。
それでも、生きる道、生かす道をさがすというのか。自分自身のためではなく。
絶対絶命の危機を前に、小国の皇太子のチャグムの小ささを思う。
けれども、彼は、追い詰められれば追いつめられるほど、どんどん大きくなるようなのだ。
けれども、こういう成長は、成長しつつ別の部分で血を流しながら細く身を削っているようで、見ているのがつらい。


ナユグは、チャグムのもう一つの帰るべき故郷であったかもしれない。彼はナユグの光景に惹かれ、なつかしがっていた。
けれども、自らそちらに手を振り、背を向けたのだ。
彼の決意、覚悟の重さを見ながら、なんだか得体のしれない怒りが湧き上がってきた。
16歳じゃないか。
ただ一人のたった16歳の肩に、一国の未来をまるごとのせようというのか。
ああ、チャグム、チャグム。シリーズはとうとう『天と地の守り人』三分冊だけになりました。