9月の読書

2014年9月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:3737ページ

エルサレムの秋 (Modern&Classic)エルサレムの秋 (Modern&Classic)感想
物語の隙間に吹いてくるのは熱を帯びた砂漠の風か。人に重たい眠りをもたらし、ひっきりなしの夢を見させ、孤独に追いやっていくような、風。不自然で不自由な見えない縛りのなかで、やっと息をつきながら、いつか縛りを断ち切って旅だつ事を夢見る。でもしない。きっと砂漠の風がそういう力を奪っているのかもしれない。
読了日:9月29日 著者:アブラハム・B・イェホシュア
ドクター・ヘリオットの毎日が奇跡(下) (集英社文庫)ドクター・ヘリオットの毎日が奇跡(下) (集英社文庫)感想
ヘリオット先生はタフだ。変わっていくものも、変わらないものも、そっくりそのまま喜びとともに受け入れて、そっくりそのまま愛している。だからこの本を読んでいてしみじみと満たされる。人間は本当に無力だ。無力だからこそ、愛おしい。無力だからこそ、世界は本当に美しい。これからもずっと・・・と願う。
読了日:9月27日 著者:ジェイムズ・ヘリオット
ドクター・ヘリオットの毎日が奇跡(上) (集英社文庫)ドクター・ヘリオットの毎日が奇跡(上) (集英社文庫)感想
お帰りなさい先生。変わらない風景、変わらない人々。でも、一方でいろいろなことが少しずつ変わっていく。その変化がうれしくもあり寂しくもある。輸出羊の獣医としてロシアへの船旅日記(冷戦真っただ中に!)が連載読み物のように挟み込まれ、続きが楽しみ。好奇心旺盛で柔軟な人柄が巻き起こすあれこれにハラハラくすくす。
読了日:9月23日 著者:ジェイムズ・ヘリオット
神の守り人〈下〉帰還編 (新潮文庫)神の守り人〈下〉帰還編 (新潮文庫)感想
大きなスケールの物語に圧倒された。同じ国の歴史、出来事の意味は、価値観により都合よく変わっていくものだ。今にも倒れそうな基盤の上で微妙なバランスを取りながら喘いでいるかに見える王国。でもそれを支えているのは、あの子どもたちの旅を支えてきたごく普通の人たちなのだということを忘れてはいけないはずだ。
読了日:9月20日 著者:上橋菜穂子
神の守り人〈上〉来訪編 (新潮文庫)神の守り人〈上〉来訪編 (新潮文庫)感想
抱えているのは恐ろしい力を秘めた爆弾のようだが、誠意をもって、より正しい道を歩もうとしている人ばかり。それなのに対立するのは、拠る所の違いか。まだ、見せられていないカードがあるようだし。ただ翻弄されるばかりの孤児たちの不安と心細さがたまらない。とにかく旅が始まる。下巻へ行きます。
読了日:9月18日 著者:上橋菜穂子
ソングライン (series on the move)ソングライン (series on the move)感想
この物語は歌であり、旅なのだ。物語は、どのような答えも提示するつもりはないのだろう。そういう物語ではない。わたしは歩きたい。歩きたい。大地にしっかり足をつけて。はるかな空の高みに歌が吸い込まれていく。歌は喜ばしく「名前」を歌い上げる。
読了日:9月16日 著者:ブルース・チャトウィン
イップとヤネケイップとヤネケ感想
子育てが終わった私には、二人が引き起こしてくれるあれやこれやが楽しくて楽しくてしょうがない。オランダの子どものいる暮らしの一部をあちこちから覗くような楽しみも魅力的。子どもたちを見守る親たちの機知にとんだおおらかさが素敵。そういう全部が合わさって平和な喜ばしい世界が出来上がっているんだな、と思う。
読了日:9月13日 著者:アニー・M.G.シュミット
野生の猛禽を診る―獣医師・齊藤慶輔の365日野生の猛禽を診る―獣医師・齊藤慶輔の365日感想
アンブレラ種と呼ばれる大型猛禽を保護することは、私たちの自然環境を守ることに繋がる。それなのに彼らの命を脅かしているのが人間の生活であるとはなんという皮肉。野生動物獣医師の職域の広さ・深さは未知数という。多くの難問に挑み道を切り開いてきた著者の「未知数」という言葉には「希望」が込められている。
読了日:9月10日 著者:齊藤慶輔
虚空の旅人 (新潮文庫)虚空の旅人 (新潮文庫)感想
暗雲迫る。「天と海の狭間にひろがる虚空を飛ぶハヤブサのように、どちらとも関わりながら、どちらにもひきずられずに、ひたすらに飛んで行きたいと思う」彼の目指すことが本当に可能なのかどうかわからない。でも、虚空に生きる孤独を知る彼ならきっと・・・と思うのだ。落ちるなハヤブサ、と念じつつ、彼の旅路を見守っていたい。
読了日:9月7日 著者:上橋菜穂子
ニムオロ原野の片隅から (福音館日曜日文庫)ニムオロ原野の片隅から (福音館日曜日文庫)感想
根室の牧場で牧童になった著者の手記。過酷な労働の中から湧き上がってくる喜びは、鉄さんという先輩牧童に通じている。遠く旅することもない。多くを知らない。それでも、遠く旅した人よりも、確かな知識人よりも、はるかに大きな知恵を大地から授けられている人。そういう人の存在・歩き方を、知らせてもらえたことを幸福に思う。
読了日:9月5日 著者:高田勝
フォトグラフ (ShoPro books)フォトグラフ (ShoPro books)感想
国境なき医師団MSFと共にアフガニスタンを旅したカメラマン、ディディエ。どんな負傷者も区別しないで治療するMSFからの戦争の眺め(?)は驚くばかり。治療を受ける子どもの将来を思うと暗澹とした気持ちになるが、アフガニスタンの人々の文化・習慣について、欧米の価値観を土台にして断ずることの傲慢さも思い知る。ディディエの過酷な帰路があって、なお繰り返し「医療設備が整っていない戦地の外科活動」に戻ってくる医師たちの存在、「でも旅については、世界一美しい国を見ることになる」という言葉が、大きな意味を持って響いてくる。
読了日:9月4日 著者:エマニュエル・ギベール
かつては岸 (エクス・リブリス)かつては岸 (エクス・リブリス)感想
押さえつけられ、揺さぶられたことは、生々しい記憶なのだ。それでも島がリゾート産業に活気づいていく中、おおっぴらに憎むことさえできず、やりきれない孤独と悲しみに黙り込む人びとを島は抱きしめているようだ。好きなのは『わたしはクスノキの上』 色のない物語に小さな光がひとつ落ちたように思えた。
読了日:9月2日 著者:ポールユーン

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