『エルサレムの秋』 アブラハム・B・イェホシュア

エルサレムの秋 (Modern&Classic)

エルサレムの秋 (Modern&Classic)


『詩人の、絶え間なき沈黙』
老いて筆を折った詩人と、知的障害を持った息子二人の閉塞した生活を美しい文章で静かに描きだしていく。
親子の互いに対する眼差しは互いに交わり合わなくて、ともに(ことに詩人に)狂気めいたものを感じる。
交わり合わない情、満たされるために互いを犠牲にしてしまうしかない情は、これでもかという皮肉な形に結実してしまう。
ブラックさに沈黙しつつ、これはなんという喜劇なのだろう、と暗い笑いがこみ上げてくる。


エルサレムの秋』
昔愛した(そして今もまだ愛している)女の、三歳になる子どもを三日間、という約束で預かる。
子どもは女にそっくり。
>最初はその子のことをあれこれ思い、そして殺したくなった。
半分まどろんでいるような、悪夢のような三日間。でも静かに残酷に流れていくのだ、その時間は。
向かうところを失った青年の愛情は、屈折している。子どもは女だ。
屈折し、不健康にねじれている。一種不気味で陰湿かもしれない。
でも、穏やかで優しいのだ。そして、心に残るのは不思議な明るさなのだ。


キブツエルサレム・・・
砂漠の上に建った町。
イバラが茂り、さらさらと乾いた風が吹いているに違いない。
物語の隙間に吹いてくるのは砂漠の風だ。
熱を帯び、人に少し重たい眠りをもたらし、ひっきりなしの夢を見させる。
そして、一人ひとりを孤独に追いやっていくような、そんな風。
彼らは、不自然で不自由な見えない縛りのなかで、やっと息をつきながら、はるか遠くを眺めている。
いつか縛りを断ち切って旅だとうとしている。でもしない。できるかもしれないけれど、しない。
きっと砂漠の風がそういう力を奪っているのかもしれない。
見たこと行ったことのない国の、町の、人びとの、夢を私は見ている。