『イップとヤネケ』 アニー・M.G.シュミット

イップとヤネケ

イップとヤネケ


イップとヤネケはお隣同士。生け垣をくぐっていったり来たり。
舞台はほとんどお互いの家や庭、その周辺。
大きな事件が起こるわけでもなく、毎日毎日、同じようにお日様がのぼって沈んでの繰り返し。
でも、子どものいる暮らしはなんてまあ、いろいろなことが起こるのだろう。なんて毎日が新しいのだろう。


子育てが終わった私には、二人が引き起こしてくれるあれやこれやが楽しくて楽しくて(一部懐かしくて)しょうがない。
そうして、自分の子育て中を重ねてみる。きりきりしたりいらいらしたりもしたけれど、子どもと一緒に過ごした楽しい時間のことばかりが蘇る。
(子にとってはそうではないようで、強くなった今、あの時のあの言われようは今でも納得できない、と、厳しく詰め寄ってくる ←たいてい親の方は覚えていないこと)
イップとヤネケの両親のゆったりとした子育てが素敵で、ついつい自分もそんな親だったような錯覚に陥っていた。


物語の中の両親たちは、完全に黒子に徹しているのだけれど、それだけに、存在が光るのだ。
子どもたちのおかげで相当変化にとんだ毎日を送っているけれど、おおらかさと機知とで、大いに日々を楽しんでいるように見える。
お話を安心して楽しめるのは、両親の穏やかに安定した見守りがあるからに違いない。


床屋さんがいやで、頭に「しっぽ」をつけたまま逃げ出してしまったり、
おじいちゃんに持っていく林檎はどれがおいしいか、ひとつずつ(!)味見したり、
二人なりに考えて花の種をまこうとしたり、
一枚だけめくる日めくりの次の絵柄を期待して、交代で次々破り取ってしまったり。


オランダの珍しいおやつや、庭先に現れるハリネズミ、お誕生日の飾りつけ。
ドアを開けて入ってくるシンタクロースとお供のマックス。
オランダの、子どものいる暮らしの一部をあちこちから覗く楽しみも魅力的。


そういういろいろが全部合わさって、この平和な喜ばしい世界ができあがっている。