『夜はライオン』 長薗安浩

夜はライオン

夜はライオン


どんよりしている・・・停滞している・・・
だれにも言えない、恥ずかしい秘密。現実をうまく泳ぎ渡る頭の良さとあふれそうな不安と。
そして善意を押し付けるずるい大人たちが、さらに苛立たせる。


「選ばれてあることの恍惚と不安と二つわれにあり」ヴェルレーヌの有名な詩句だそうだ。
姉の本からみつけたこの言葉がまるで自分のことのようだ、と感じる木村君。
誰にも心を開かない転校生の今泉くんとともに、(タイプは違うけれど)かわいげのない子だ。
かわいげのないところが愛しい。人に甘えない子どもたちだ。甘えることがへたくそなのだ。
今泉くんが木村くんに興味をもったのは、きっと同じ匂いがしたからだ。


二人の少年は、互いに何もかもを明かそうとは思っていないし、相手のことを知ろうとも思っていない。
彼らはともに寄りかかり合わない。
ただ、どこかに接点を感じながら、とりとめなく語る言葉がとてもいい。
とりとめがないし、第一大切なことは何も言わない。でも、大切な時間を共有している。一番大切なところで黙って接している、そのわずかな時間が、とてもいい。
全然爽やかなんかじゃないんだよ。このあと、もやもやと、どうなるかわからないまま、終わっていくのだ。
それでいいんだ。それだから、あの夜の時間が切ないくらいに輝く。重たい空気の中で。
不安な時代に不安定な大人たちの中で、人に頼ることがへたくそな二人への贈り物のような時間だ。
(本当は、一人で踏ん張っている今泉くんのことがとても気になる・・・)


*補足?*
あの・・・そこまでリアルに丁寧に描写してくれなくてもいいじゃないの、と涙ながらに訴えたい場面があります。
これから読まれる方、この本については、飲食しながらの読書は、避けたほうがよいかもしれません。