『図書館に児童室ができた日: アン・キャロル・ムーアのものがたり 』 ジャン・ピンボロー/デビー・アトウェル

図書館に児童室ができた日: アン・キャロル・ムーアのものがたり (児童書)

図書館に児童室ができた日: アン・キャロル・ムーアのものがたり (児童書)


アン・キャロル・ムーアが図書館員になったころ、児童室という「箱」はまだやっと生まれかけでした。
アンは、生まれつつある入れ物に、魂を注ぎいれたひと、そして、その後もずっと燃え続けていく(アメリカ中に、世界中に広がっていく)灯りをともした人でした。


図書館に子どもは出入り禁止。特に女の子は本など読まなくてもいい。女の子は家の中でおとなしくしているもの。
アンの少女時代のアメリカの社会では、それが当たり前だった。
そこからアン・キャロル・ムーアの子どもの図書館は始まったのです。
やがて、36もの分館を持つニューヨーク公共図書館の子どもの本に関わる仕事全体を任されることになりますが、
周囲には、児童室・子どもの読書に対しての古い因習や無理解が蔓延していたのだ。
そういう時代に信念を持って一つことをやり遂げた勇気ある女性の物語としても、とてもおもしろく読みました。
夢をかなえるために地道に努力すること、決してあきらめないこと、彼女の着実な一歩一歩を心に刻みつつ。


彼女の中で、新しい子どもの図書館はいつ、どのようにして生まれたのだろう。生まれて、育っていったのだろう。
やがて「ニューヨークの子どもたち みんなのために、いちばんすてきな図書館をつくろう」と、アンは心に決めます。
そうして生まれた新しいニューヨーク公共図書館の児童室。それは、なんとワクワクする世界なのだろう。
夢を形にし、作り上げるまでの困難は並大抵ではなかったはすだけれど、
その過程を読みながら感じるのは、開拓者としてのムーアさんの、未来を信じる明るいおおらかさと弾むような喜び。夢中になってしまう。


わたしは、近くの公立図書館の児童室を思い浮かべています。
子どもの手の届く高さの書棚、絵本は表紙が見えるように並んでいる。小さなテーブルとイスも、明るい窓の下の座り心地のいい長椅子もある。
そして、定期的なお話会や季節ごとの大きな企画も楽しみ。
百年以上前にアン・キャロル・ムーアが始めたニューヨーク図書館の児童室が、そっくり、今この地の公立図書館に繋がっていたのでした。
あるのが当たり前のように思っていた図書館の児童室だった。
それが、このようにして生まれたのだということ、
多くの熱心な図書館に関わる人びとの手で日本に運ばれてきたのだという事を、今まで本気で考えたことがあっただろうか。


一冊の本のなかには、とりわけ子どもの本の中には、たくさんの大きなワクワクが詰まっている。
本と子どもたちが出会う部屋にも。
子どもたちが、図書館の児童室に通いながら大きくなれたことは幸せだった。
アン・キャロル・ムーアと、そのあとに続く人びとに、子どもと本とを出合わせてくれた図書館員さんたちに感謝します。