『秘密(上下)』 ケイト・モートン

秘密 上

秘密 上

秘密 下

秘密 下


サフォークの、のどかな田園風景である。優しい父と母と子どもたち。
絵に描いたように美しい平和な光景に、瞬間、裂けめが入った。この家の長女ローレルの目の前で。
大人になったローレルは、あるきっかけから、あの一瞬の意味について考え始める。
ほとんど語られることのない母の過去を、ローレルは調べ始める。

>こうして謎解きにやっきになったてきたのは、やむにやまれぬ衝動につき動かされてのこと。幸せを絵に描いたような家族が、自分の子供時代が、母と父が世間では珍しく、終生変わることなく愛情のこもる眼差しを交わし合っていたことが、どれもまやかしでなかったと知る必要があったからなのだ。


人の印象って、その人のことを誰が語るかによって、ずいぶん違うものだ。
多くは偏見や誤解。また、よく知っているつもりのその人のことを、ほんのわずかな一面しか見ていなかったのだな、と気がつく。
そして、最初の印象は、時を経るごとに変わってくる。


すっかり振り回された。(振り回されることが気持ちよかった。)
そして、一つの秘密を知った。それが秘密になった理由も知った。長い物語をローレルとともに辿ってきた私には、文字通り天地がひっくり返るような驚きだった。
しかし、それよりも、もっと驚いたのは、別の小さな秘密の存在であった。
そもそも一つの秘密は一つにとどまるわけがない。いくつもの秘密が、その大きな秘密を支えていることを知った。
その大きな秘密を支えようとした小さな秘密たちの存在があまりに愛おしくて「悲しみと嬉しさがまじり合った」ような気持で振り返っている。


平和な家族の情景、平和な日々のかけがえのなさを思い、その平和を守り育てることが祈りのようでもあったのだ、と感じています。
これは大切な家族の物語だ。
決して半端な気持ちでは築けなかった家族の平和の物語だ。
若い日々も、死を間近に控えた老いの日々も、そしてそういう老親を見守る子どもたちの姿まで含めて、確かに「頑張り屋さん=サバイバー」だったんだと。


>秘密というのは秘密をそのままにしておくのが難しい。秘密は心の被膜ぎりぎりのところに身を潜めていて、それを抱える人の決意にひび割れをみつけるや、そこからいきなり這い出してくるのだ。
秘密は再び箱にしまわれた。いつか誰かが開けるだろうか。開けなくてもいいが、秘密であるからにはきっと・・・。
そして、その誰かもまた、紆余曲折の末、真実にたどり着くだろう。満ち足りた気持ちでまた箱の中に納めるのだろう。