『おじいちゃんの口笛』 ウルフ・スタルク

おじいちゃんの口笛

おじいちゃんの口笛


「おじいちゃんをみつけられるのはここさ。年とった男の人がたくさんいるよ」
ベッラにはおじいちゃんがいない。おじいちゃんがほしいベッラが、「おじいちゃんを手にいれられるところ」を知っているというウルフに連れてこられたのが老人ホームだった。
こうしてベッラが出会ったのが、身寄りのないニルスおじいさんだった。
ニルスもベッラも、お互いが自分の本当のおじいちゃんでも孫でもないことをちゃんと承知している。承知しながら、ふたりはおじいちゃんと孫になった。


お年寄りと子供たちの会話も、行動も、思わずどきっとするし、その行く手を心配して、はらはらしてしまう。
でもそこからとんでもないことになるわけではなくて、深刻なことになるわけでもなくて、ひょうひょうとした時間が流れていく。
それが独特のリズムになり、そのリズムが可笑しみを誘います。そして、しみじみとしたぬくもりに変わる。
相手を思いやって、あえて言いたい言葉を飲み込んだり、行動を慎んだりすることを良しとする価値観の下で見ると、にわか孫の行動は、ぎょっとすることばかりなのだ。
だけど、時には無心でストレートな行動は心に響く。
おじいちゃんが欲しい、孫が欲しい・・・それは、無心にだれかを愛したい、それだけだったのだろう。
一種のごっこ遊びだったけれど、本物か偽物かなんてことは問題ではないのだ。
何よりも、この関係をお互いがおおいに楽しんでいることが素敵なのだ。


美しい凧、夕闇の中のさくらんぼの木・・・そして口笛。
しみいるような品々、しみいるような一瞬一瞬。
切ないくらいに可笑しくて美しい。
読後、胸に広がるのは、洗われたような爽やかさだ。