『鴎外の子供たち』 森類

鴎外の子供たち―あとに残されたものの記録 (ちくま文庫)

鴎外の子供たち―あとに残されたものの記録 (ちくま文庫)


こと姉・茉莉の離婚にまつわる部分は、身内からの顰蹙を買って、ごっそり削除されて世に出た本だそうです。
ひどいところを削ってなお、これである。
しかし、意地悪で書いたわけではない。天真爛漫で正直なのだろう。

>あたしたちを一人ずつ俎板の上に連れてきて、好きなように料理されてはたまらないと、二人の姉から毛虫のように忌みきらわれ、今は会うことも許されなくなっている。
・・・こんなふうにまえがきに書いて、悪びれない、永遠の坊ちゃんのようだ。
身内のこともひどい書きようだけれど、それ以上に、自分にひどい。自虐がめちゃくちゃ多いのだ。
自虐だけれど、卑屈な感じがしない。妙に健康的な自己肯定感(?)がある。


母志けと四兄弟の性格暮らしぶりなど、まるで絵のように目の前にくっきりと浮かび上がってきた。
父・鴎外の深い愛情に守られ、交友華やかな観潮楼時代が眩しく輝いているだけに、
父が亡くなった後の母志けを中心にした一家の暮らしは、寂しい。
物質的には、父の遺産・印税のおかげで、庶民と比べれば、そこそこ豊かだったのではないか、と思うけれど、後ろ盾もなく、光の当たる場所から影に追いやられたような侘しさだった。


それぞれに突出した個性を持って、なんという濃い家族。それは、父死後の質素な生活の中でこそ、はっきりしてくる。
戦争のための苦労、多くの大切な物を失ってしまったことは別として(別として? この苦しみが普通の人々に万遍なく降り注いでいた「戦争」そのもののおぞましさ)、
この家族の歴史は、とりわけて目立って非凡なことがおこったわけでもなかったのではないか。
むしろ、彼らの個性と心のありようが、この一家の半世紀を非凡で劇的なものに感じさせるのではないか。
エッセイというより、大河小説を読んだような充実感。
そして、思う。それぞれがなんと愛おしい人たちなのだろう。