『レター・フロム・ニューヨーク』 へレーン・ハンフ

レター・フロム・ニューヨーク

レター・フロム・ニューヨーク


大好きな『チャリングクロス街84番地』(感想はこちら)の著者へレーン・ハンフが、イギリスの人気ラジオ番組に、一か月に一度、五分間という枠でニューヨークの生活の様子を語る。
その原稿を一冊にまとめたのがこの本。
1978年から1984年。
当初、半年間という約束だったのに、結局6年間続けることになった。なぜ6年も続いたのかといえば・・・
この本の中にはへレーンというフィルターを通したニューヨークが詰まっています。
それはつまり、人と人が繋がり合う温かさであったり、夢を信じることであったり、物質的ではない心の豊かさを誇ることであったり。時には、ちょっと辛辣な皮肉をほどよいスパイスにして。
へレーン、本当に生活そのものを楽しんでいるのだな、と感じる。彼女の暮らし方や彼女の周りの人々が素敵、というより、いつも朗らかで好奇心を失わないへレーンの心の若さがいいのだ。


同じアパートに住む人たち、気の置けない友人たちとのさまざまな場面でのチームワークの鮮やかさを示す数々のエピソードが好き。どれも可笑しくてあたたかい。
ただ。ただ、素敵すぎる・・・ちっともドロドロしたところがないのだ。
描かれていない部分にいろいろあるのだろうけれど、彼らの関係はとてもさっぱりしている。
もし面白くないことが起これば、さっさと関係を解消することが可能なように思う。(そうではないお付き合いもあるけれど、特にご近所関係などは)
この本に出てきたほとんどの人がどこかバラバラな場所から集まってきて、いずれバラバラに散っていく人たちなのだろうと推察する。
一過性の繋がりであるかもしれない。でもそれは上っ面の付き合い、というのではないと感じています。
根っこは、孤独な一人とひとり。少し臆病でもあるかもしれない。
自分の孤独を大切にしているから、相手の孤独を尊重しようという暗黙の了解なのではないだろうか。
そうして生まれるひとつのかけがえのない時間、友情。大都会の片隅の輝き。