『アイルランド童話集 隊を組んで歩く妖精達―其他』 イェイツ(編)

アイルランド童話集 隊を組んで歩く妖精達―其他 (岩波文庫)

アイルランド童話集 隊を組んで歩く妖精達―其他 (岩波文庫)


隊を組んで歩く妖精たち。替へ子。人魚。一人ぼっちでいる妖精達。幽霊。巫女、妖精学者など。巨人。王様、王妃様、お姫様、殿様、盗人など。
アイルランドの昔話を、テーマ(主要な登場人物?)に合わせて、以上九つの項目に分類して、その項目ごとにいくつかのお話が紹介されています。再話者の名とともに。
項目ごとに簡単な解説があり、そのおかげで、お話の情景が割合スムーズに理解できるのです。
たとえば、隊を組んで歩く妖精達はたいてい陽気ないたずら者であるのに、一人ぼっちでいる妖精には(とり憑くタイプとでも言おうか)やっかいなのもいるようだ。
「人魚」といったら、アンデルセン物語の人魚姫の姿を思い浮かべるのですが、アイルランドの人魚はかなり様子がちがいます。日本の「はごろも」に似た三角帽子の効能(?)も、この解説で知りました。
人間でありながら妖精に極めて近い存在の巫女や妖精学者のことも、巨人がどのようにして生まれた(?)のか、ということも。あらかじめ情報を供給され、物語の理解を大いに助けてもらいましたが、
時には物語以上に、この短い解説は興味深く、妖精事典みたいでおもしろかった。
ただ、欲を言えば、もうちょっとお話が多く収録されていたらよかったなあ。項目ごとに二つか三つ、場合によっては一つ。少ないよ。もっと読みたかった。


わかりやすい勧善懲悪や教訓話から離れた、おおらかな昔話を読むのは爽快。(あとづけで無理やり教訓話にこじつけようと努力している語り手もいるが、成功していないのではないかな、それでよしです)
怠け者がついつい大成功して幸せに暮らしてしまうこともあれば、頓智で危機を切り抜けたり、どう転ぶかわからないお話が楽しいよ。
信じがたい理不尽な出来事も起こるけれど、それをあっさり受け入れてしまうのは一つの優れた知恵なのかもしれない。
大好きなのは『ノックメニの昔噺』 巨人フィン・マコウルの話。実はかなりちまちました策略のお話なのに、からっと豪快な物語を読んだなあ、と気持ちよく感じられるのは、何しろ巨人の話であるからして、物も出来事も、スケールがびっくりするほど大きいのだ。


どこかで似た話を聞いた、読んだ。よく知っているあの話だろうと思っていたらちょっとだけディテールが違っている。
それらみんな語り手から語り手へとバトンタッチして伝わってきた昔話の楽しみ。
それらも、そして、初めて読む話も、みんな、何度読んでも楽しい、おもしろい。昔話はよいものだ。