『メアリー・ポピンズとお隣さん』 P.L.トラヴァース

メアリー・ポピンズとお隣さん

メアリー・ポピンズとお隣さん

  • 作者: P.L.トラヴァース,メアリ・シェパード,荒このみ
  • 出版社/メーカー: 篠崎書林
  • 発売日: 1989/04
  • メディア: 単行本
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これは、岩波書店から出ている四冊の『メアリー・ポピンズ』には収録されていないお話。
訳者あとがきによれば(1989年当時)八十歳の半ばのトラヴァースさんは、「ある日とつぜん、メアリー・ポピンズのお話が頭に浮かぶ」のだそうです。
この本は、そうして生まれたお話のひとつ。
すっかりご無沙汰しているメアリー・ポピンズに、この本で再会しました。
バンクスさん一家も、さくら通りのご近所さんたちもみんな健在でした。
(ブーム提督も、提督の船の家も、ラークさんと一緒にいるアンドルーとウィロビーも、公園番も、懐かしいみなさん、お久しぶり。)


さくら通りの空き家に、だれかが引っ越してくるというので、バンクスさんをはじめとして近所の人たちは気が気ではないのです。
だって、「どの通りにも空き家がなければいけない」から。
なぜかといえば、
「空き家があるとですよ、近所の人が、みんな思い思いの夢を持ち、気に入った人を勝手にそこに住まわせることができるからですよ」
こういう言葉が出てくるだけで、そらそら、とうれしくなってしまう。すでに半分「魔法」にかかっているような気がして。
いったいメアリー・ポピンズが不思議な人なのだろうか、この通りも(魔法と相性の良い)不思議な通りではないだろうか。
近所じゅうのひとたちがみんなで大切に思い、それぞれに夢を持てる空き家って、どんなたたずまいの家だったんだろう。
さて、この家に越してきたのは、だれあろう、やっぱりこちらも懐かしい人(まあ、いろいろと)でした・・・


まったく親切そうには見えないし、いったんダメといったら梃子でも動かないのがメアリー・ポピンズ。
みじめな時でもちっとも同情なんかしてくれないし、うっかり泣き言を言えば、もっとみじめな気分にさせてくれるのが、メアリー・ポピンズ。
それなのに、どうして、子どもたちはメアリー・ポピンズが好きなのでしょう。
彼女といると不思議なことが起こるから?
それだけじゃない。
権力にへつらったり、こびたりしない。子どもに手厳しいけど、大人にも手厳しいのです。
努力もしないで泣きつく人を軽蔑するけれど、自分で何とかしようとしている人には、さりげなく手をさしのべるのです。
だから、ときどき理不尽なことを言われてもされても、やっぱりメアリー・ポピンズが好きなんだ。


「メアリー・ポピンズのおうちはどこにあるの。東にあるの。それとも西に。ここにいないときは、いったいどこに行ってるの」
とジェインが訊きます。


この本を読み終えて、嘗て読んだメアリー・ポピンズをもう一度読み返したくなったけれど、本棚にはありませんでした。
上の娘と一緒にいるらしい。あちらでメアリー・ポピンズが答えている。「どこにいようと、そこがわたしの家ですよ」と。
そのうち風に乗って帰ってくるね。