『ふたり』 福田隆浩

ふたり

ふたり


小学六年生のふたり、准と佳純は、ある日、同じ作家の本が好きなのだ、と気がつく。大好きな作家は覆面作家で、謎の人。別名義で、全くジャンルの違う作品を書いているという。
その別名義を探しだしたいと思うふたり。手がかりは、これまでに出版されたその作家の本の中に隠されている。
わくわくするではないか。本の中の冒険だ。
ふたりのあとについて、一緒に考え、あれやこれやと仮説を立てたり、推理したり、それは、とっても楽しかった。


だけど、それだけではないのだ。もうすぐ卒業を迎える6年生、大人への階段に、不安定に足をかけている子ども、といったところだろうか。
とげとげした空気がふたりの周りに立ち込める。(とげとげを透かしてみれば、淋しさと不安とに震える臆病なたくさんの心が見えてくる。)
それぞれ、クラスの中でも、家庭の中でも、しんどい思いをしている。
彼らが抱え込んだ重たいもののほとんどは、子どもが自分ひとりではどうしようもないこと。酷だ、と思う。
なんでも話せる友だち、なんているのかな・・・そんな問いかけがクラスの子どもたちの中から聞こえてきそう。どう答えたらいいのか。
大人は頼れるか? いや、むしろ子どものほうが、大人の心を汲もうとしている。気遣っている。
それでも、このきつい人間関係の中に(家族の中に)ふっと小さな、でもとても美しいものが、本当にさりげなく混ぜ込まれているのを感じる。
それは、きっと作者の祈りなのだろう。この美しさが、現実の世界で当たり前の美しさになることが。


不安な空気が漂う日常に、オアシスのような土曜日の午前中の図書館。ページをめくる音だけが聞こえるそこで、ふたり、同じ謎(と、憧れ)を共有して本を読む。
ぽっかりと明るい、居心地のよい空間がここにある。
図書館好き、本好きにとっては(そうじゃなくても?)ひときわ印象的な場面の数々。彼らといっしょに深呼吸したくなる、図書館の空気は外の空気とはまるでちがう。
こういう場所があってよかった。こういう協力ができてよかった。ここでともに育んでいけるものがあってよかった。
小さな初恋の物語でもあるのだけれど、いきなり、相手をまっすぐ見つめるのではなくて、共有する世界(本、好きな作家)を介して相手にそろそろと近づいていくような、回り道めいた関係が心地よい、ほほえましい。
胸のなかに大切な世界を持っているって、幸福だね。


素敵だった。最後の盛り上がりに、胸がいっぱいになる。
「きみたちは、もっと自分たちの未来を信じていいと思うよ」ここで、この言葉、まずは、大人のわたしが、はっとした。
この言葉を子どもの心にちゃんと届けたいと思うなら、まずは、大人である自分が未来を信じなければ、と思う。
何度も傷つき、地にたたきつけられ、ずたずたになったとしても、失望し、失望し、失望しても、信じる。
ほんとは不安で不安で仕方がないのは、大人もそうなのだ。でも、大人が未来を信じられなくなったら、(今でもしんどいのに)子どもはたまらないだろう、と思う。
信じる未来を臆せず見つめ続けることは、勇気がいることにちがいない。
おずおずと自分たちの夢を語り始めるふたりの澄み切った言葉に、私の心も晴れていく。