『本屋図鑑』 本屋図鑑編集部

本屋図鑑

本屋図鑑


少し前に『女子の古本屋』(感想)を読んだ。
古本屋ともなれば、人の手を経た本そのものにドラマがある。店のつくり、品ぞろえに、それぞれの店らしいこだわりがあり、店主の人柄、生い立ちまで、すべてに色の濃いドラマがあった。
だけど、新刊書店となると、どうなんだろう。
正直、ざっくりと、大きい本屋、小さい本屋、チェーン店か個人営業か・・・違いといっても、そのくらいの漠然とした印象しかなかった。置いている商品にしても、新刊が中心だから、品ぞろえが豊富かどうか、程度しか、思い浮かばなかった。
・・・ほんとかな? だったら、なぜ「あの本屋さんが好き」って思うんだろう。
・・・この本を読みながら、そういえば、とお気に入りの書店のいろいろなことを思いだし始めた。


よく見かけるチェーン店のひとつだし、ちょっと遠いあの店。遠くてもあの店、好き。店の一角にちょっと変わった旅本なんかが置いてあったりするのが目に楽しいのだ。「散歩」関連とか「秘密基地」関連の本とか、期間限定のテーマの本を集めたコーナ―ができていたりするのも、おもしろいし。
また、近くの小さな本屋さんは、棚の並びが変則的で、店の中で迷子になるような気がするのがちょっと素敵なのだ。
それから、もうちょっと遠いあちらの本屋さん。地元の版画家さんデザインのブックカバーが素敵で、これがほしくて、たまに出かける。電車の中でこのカバーの文庫本を読んでいる人を見かけると、思わずすり寄りたくなる。


どの本屋さんも、新刊書店ですもの、似たり寄ったりの品ぞろえに見えるところがミソかもしれない。でも、実はね・・・と通えば通うほどに、それぞれの本屋さん特有の味に気がついていくのも、新刊書店ならではだった。
この本を気ままに読みながら、そんなことを思い出していた。


「図鑑」というタイトルに敬意を表し、順不同に、気ままにあちこち変則的に読みました。
故郷の老舗本屋さんが出ていて、ああ今も変わらない棚、変わらない品ぞろえで営業しているのだ、と懐かしくなると同時に、「でも、私が好きだったのはここではない○○屋さん。もう閉店して久しいのだな」と、若い日のあれこれを思い出した。雨の日に、雨宿りに飛び込んで、傘を貸してもらったこともあったっけ。友人との待ち合わせもこの本屋さんだった。
別に買うあてがなくても、ふらりと寄ってみたくなる本屋さん。


この本、見かけよりも何倍も中身は厚いんです。魔法みたい。
読むほどに、行間から、たくさんの本屋さんの棚が浮かび上がってきます。最初はそっけないけれど、やがて、それぞれ、全く違う顔があることにゆるやかに気がついてくる。本の内容に、自分の思い出がいい具合に混ざり合って、さらに本の厚みはふくらむ。その過程が楽しい。