『花びら姫とねこ魔女』 朽木祥・作/こみねゆら・絵

花びら姫とねこ魔女

花びら姫とねこ魔女


寂しいな。
自分のことを自分で「とくべつ」と思っていたのか。
でも、だれも、この子のことを「わたしにとっての“とくべつ”」と思ってくれる人はいなかったのかな。
この子を愛して慈しんでくれる人は一人も出てこない。
世界で一番美しいことも、醜いことも、さほど変わりない。それは胸が痛いほどの寂しさ・孤独ではないか。

美しいお姫さまも、人に恐れられるねこ魔女も、愛されない悲しみに満ちています。
沢山の猫たちが出てきた。
そして、たくさんの氷が出てきた。
かわいい猫が出てくれば出てくるほど、ますます氷は厚くなる。それは、心を映す鏡のようでした。


・・・たとえば、どうしても解けないパズルの、小さなピースを一つだけちょっと裏返すだけでするすると解け始めるように、何かが動き出すこともあるかもしれない。
でも、どうしたら、そのことに気がつくことができるのだろう。今まで見ようと思わなかった物を見ようと思えるのだろう。


そこにひとつの「とくべつ」が現れるのですが、それがとっても愛おしくて。
「とくべつ」が作用するとき、世界が本当に美しくなります。花びらに包まれるように。
しかも「とくべつ」はさりげない。
「とくべつ」は自分の存在をきっと「とくべつ」だと意識しない。これからもずっと。
そういう「とくべつ」・・・


この本、挿画がとても美しいのですが、なかでも素晴らしいのは沢山の猫たち。
ただの絵ではありません。
この子たちには、みんな生きたモデルがいるのです。私の存じ上げている方の大切なパートナーもここにいるのだそうです。
ある方がいいました。「この本の猫さんすべて、みーんな誰かのとくべつなんですよね」
だから本当は「たくさん」と、ひとくくりにしては申し訳ない。
だれかにとっての「とくべつ」たちの心臓の音とぬくもりとが絵から立ち上ってくるよう。
一気に駆けてくる場面は、圧巻でした。