『木々は八月に何をするのか』 レーナ・クルーン

木々は八月に何をするのか―大人になっていない人たちへの七つの物語

木々は八月に何をするのか―大人になっていない人たちへの七つの物語


幻想的で美しい表紙に惹かれて手に取りました。
不思議な物語が八つ。
北欧の森と海の香りが隠し味になっている。


どの物語も少し怖い。
何も知らずに暮らしてきたけれど、この空間には、実は得体のしれない何かが混ざりこんでいる。
この世に生きるのは、目に見えるものだけではない。
この世は、もともとそういう「目にみえないものたち」と「目に見えるものたち」とがともに住む世界だったのだろうか。


あるいは、まったく気がついていなかった、不思議な扉口に気がつくこと。
それは、ほとんどの場合閉ざされているけれど、きっと開くこともあるのだ。
それはこの世から異世界への入り口であり、異世界からこの世への出口でもあるのだろう。
どうする? その扉口に立ったとき。そちらへ行ってみようか・・・


物語が怖いのは、目に見えない者たちの存在ではない。
物語の登場人物も、わたし自身も、それらにどうしようもなく魅せられてしまうことが怖いんだ。
ふしぎな世界を垣間見せられて、そこに引き寄せられてしまうのを感じ、ダメダメ、いっちゃだめ、と思う。
それは美しい。魅惑的だ。でも、怖ろしいものだと思う。
大丈夫だよ・・・どの物語も、ぎりぎりのところでこちらに引き戻される。踏みとどまる。
ほっとする、良かったな、と思う。
ほんとうに?
よかった、と手放しで喜んでいないのだと気がついた。静かな結末を読みながら、大切な何かを手放してしまったことが悔やまれてならない。
知らなきゃ知らないでいられた。(でも知ってしまった)
夢みているうちは美しかった。焦がれているうちは、夢中でいられた。
それなのに、思いがけず差し招かれたそれを、自分から拒絶したのだ。
主人公たちは、そしてわたしは、この結末を喜びつつ、ほんとうに喜んでいるのかどうかわからなくなる。