『島暮らしの記録』 トーベ・ヤンソン

島暮らしの記録

島暮らしの記録


『トーヴェ・ヤンソンの夏の家〜ムーミン物語とクルーヴ島の暮らし〜』という小さな展示をみてきた。
クルーヴ島の夏小屋を復元した展示が素敵で、久々にこの本を再読したくなった。(以前書いた感想はこちら


トーベ・ヤンソンと親友のトゥーティが、一秋かけて、クルーヴ島(面積6〜7000平米の小さな小さな島)に小屋を建てる。
そして、翌年の春から夏のおわりまで、この島で過ごした記録である。


小屋の戸口にはナナカマドの樹を植える。フィンランドでは、どんな小屋にも平和と調和の兆候(しるし)として<一家のナナカマド>を植えるそうだ。
そして、ヤンソンたちのナナカマドは、この島で唯一の樹なのだそうだ。
表紙の写真をみれば、岩ばかりの島。樹の育たない島。なんだか寂しい光景に思う。
この島の暮らしは、氷を割る所から始まる。
夏は、三人(トーベとトゥーティ、トーベの母ハム)しか住む者のいないこの小さな島を暴風雨が翻弄する。
さぞ心細かろう、と思うが、トーベの文章からは、そういうことは感じない。
この本の書き出しは「わたしは石を愛する」である。そして、トーベが欲していたのは静けさではなかったか。
自然の厳しさも寂しさも、きっとトーベが欲したもの。むしろトーベの中にもとからあったものと外とが同調(この言葉、『八月の博物館』で覚えた)しているのかも。
そういえば、ムーミン物語も、何度も何度も自然の厳しさに晒されていたっけ。
自然と闘おうなんてことはムーミンたちは考えなかった。
襲いかかる天変地異を、まるで波に乗るように、ムーミンたちは飄々と越えていった。
ヤンソン流の自然とのつきあいかたなのかもしれない。そう、ヤンソンさんは「石を愛する」


見返しにはハムによる美しい地図。
そして、トゥーティによるふんだんな淡彩の挿画が、荒々しい自然に洗われた島の美しさを描き出す。

>(トゥーティは)また仕事にとりかかったのだ。銅版と単色淡彩だ。たいていは溜り水を描く。雲と鳥を映す完璧な鏡としての溜り水、暴風が吹きすさぶ溜り水、月光に照らされた溜り水、霧に包まれた溜り水、それに岩山、なによりも岩山、崖、石。
・・・それらが、この本の挿し絵になっている。
トゥーティとトーベ。静けさを愛する二人の芸術家は、互いの領分を守っている。


表紙の写真のあの夏小屋の中の様子、その一部分をわたしは見てきたのだろうか。
あの展示、岩島の上に置いてみたかった。