ぬすみ聞き -運命に耳をすまして-

ぬすみ聞き―運命に耳をすまして

ぬすみ聞き―運命に耳をすまして

  • 作者: グロリアウィーラン,マイクベニー,Whelan Gloria,Mike Benny,もりうちすみこ
  • 出版社/メーカー: 光村教育図書
  • 発売日: 2010/06/01
  • メディア: 大型本
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一日、綿花畑での仕事を終えてくたくたに疲れて家に帰る。でも、夕ご飯のあとに子どもたちには大切な仕事があるのだ。
それは、盗み聞き。
子どもたちはだんなさまのお屋敷の外の窓の下に蹲る。
こっそり話を聴きとって、親たちに知らせるのだ。
だんなさまも、おくさまも、肝心なことは、なにひとつ奴隷にはおしえてくれないのだから。
奴隷たちが、残酷な運命に立ち向かうせいいっぱいの方法だったのだ、という。


危ないところで親が売られずにすんだこと、、
奴隷監督が替わること、
そして、エイブラハム・リンカーンが大統領になったことも、子どもたちの盗み聞きから知らされたニュース。


盗み聞きはとても大切な仕事。絶対見つかってはいけない危険な仕事でもあった。
怖ろしく気持ちの張り詰める仕事であっただろう。
だけど、この窓の下には、それだけではない牧歌的な和やかさを感じるのです。
エラ・メイを中心にして、スーとボビー。
子ども同士の連帯感は、美しくさえ感じる。身を寄せ合う子どもたちのまわりにホタルが飛ぶ。
お屋敷から聞こえるピアノの音に心動かされたり、
パーティの夜には、屋敷内から聞こえるバイオリンに合わせてこっそり踊った。
お屋敷のグレースお穣さまの暗誦する詩にじっと聴き入り、家に帰りながら何度も口ずさむ。

>その詩はわたしのものになった。
その夜、わたしのチクチクするわらのしきぶとんは、
バラの花のベッドになった。


スーのおとうさんは昨年売られてしまった。
残酷な奴隷監督はちょっとしたことにすぐムチをふるう。
奴隷は牛馬―家畜より安あがりだ、とだんなは言う。


奴隷として生まれ、奴隷としての子ども時代しかなかったエラ・メイたちのひとときの平安とも言えないくらいの平安、
詩に耳を傾け、見えないものを見る少女の瞳の輝き
彼女の心が、こんなにも瑞々しく、こんなにも自由であることに、感動しないではいられないのです。
そして、感動すればするほど、奴隷制がどんなに残酷で憎むべき制度であるかと、訴えかけられるのです。静かに強く揺さぶられるのです。