紙の民

紙の民

紙の民


驚くほど(実際すごくびっくりしてます)奇抜な本でした。
内容よりもまず、この本のレイアウト・・・紙面が、文字が、それぞれものすごい勢いで主張している。
この本には大勢の登場人物がいるのだけれど、そのひとりひとりについて、文章をちゃんと読まなくても、おおまかな役割(?)が掴めそうな気がするほどなのだ。


登場人物が、土星に戦争を仕掛ける。土星は作者である。
作品の中で、作中人物たちがそろいもそろって作者に向かって反旗を翻して戦いを挑むのだ!
土星(作者)が、何から何まで、上から覗いて見ているいることが我慢できない、というのが理由。


登場人物たちの変さも際立つ。
マジックリアリズムという手法に惹かれるものはある。でも、限度ってものがある。
ここまでファンタジックだと、ついていくのが辛いのだ。
まるで「土星(作者)と紙の民(作中人物たち)との戦争」という状況がそのまま軍隊となって、まとまって、本を読んでいる私に戦争を仕掛けてきているような気がする。
くらくらしてしまう。


人々は炎やトゲ(針)で自分を傷つけ、物語の中にはたくさんの『水』が流れるのだ。
みんな破れそうな心を持て余しているが、その痛みを一時忘れるために肉体的にめちゃくちゃに傷つけている。
傷つけながら、大きなものに八つ当たりして、やっと生きているのだ。
この群像は、いったい何なのだろう。
そして、土星は天空から彼らの運命を左右するものでありながら、覗き見れば、こちらも、「紙の民」と変わらない生活をしているのである。
まったく同じように痛みをもてあましている。
痛い目に合った者同士が八つ当たりしながら相手をたたきのめそうとしているのは、戦争というより、取っ組み合いのふざけっこみたいだ。
しかも作者と作中人物の戦争、どっちが勝っても負けても・・・そもそも勝敗なんて成立しないのだ。
あまりに深い傷をなめることもできず、めちゃくちゃに掻き壊しているような、笑うに笑えない痛ましさを感じてしまうのだけれど…