ファラゴ

ファラゴ (Modern&Classic)

ファラゴ (Modern&Classic)


ファラゴは、カリフォルニア州にある、まるで世の中から置き去りにされたような小さな小さな村である。(著者が作り上げた架空の村です)
時代は、ニクソンとかウォーターゲートなんて名前がまた聞きのまた聞きくらいの感じでちらちらっと文章の中に紛れ込むから、それらの言葉が新聞をにぎわしていたころ・・・1970年代の初めか。
語り手にして主人公は、ホーマーという名前の浮浪者である。孤児で、親もわからないし、自分の年齢もわからないのだ。
ときどき衝動的に悪いことをしてしまうホーマー。
ほんとなら村の鼻つまみ者ってところだけれと、憎めないのだ。正直者で、本質的に善良、純粋なのだ。
保安官に「心臓の横に磁石がある」と時に頼られるほど、野山や森については精通した野生児で、売春婦オフィーリアには「ホーマーは精神年齢8歳」といわれるほどに時々幼い。


村は小さいからほとんどの人が顔見知りだけれど、だれもかれもが先祖代々この土地に生きているというわけでもない。
どこかからふらりとやってきて、そのまま住みついたもの、ある日突然いなくなってしまったもの、そして、いなくなって、また戻ってきたもの・・・
秘めた過去を持った心優しき変人たちや、たまには思いがけない怪物も。


この村がへんてこなのか、受け入れが大きいのか・・・
もしかしたら(たぶんきっと)ホーマーというフィルターごしに眺めると、そう思うだけかもしれない。
彼は複雑な物事をきわめて単純に受け取める。(A点とB点の間を直線で結ぶような感じで)
ときにはとんでもない勘違いをしたりして、それが可笑しみにもなるのだけれど、(マルクスをどたばた映画の主人公と勘違いしたり、ベッドの下の共産系のPR誌を卑猥な雑誌と勘違いしたり)そこから導かれる本質の理解は驚くほど清明だったりする。鋭さに舌を巻いたりもする。
村の様々な人たちが、彼を何かと道連れにし、彼にだけは秘めた過去の物語などもなんとなく語りたくなるのはそのせいかもしれない。


ホーマーは考えるのだ。
出会った人々の中からあふれてきた言葉を自分のなかで転がして転がして、自分の言葉でわかろうとする。
私は、ホーマーを通して見える世界が好きだ。
ホーマーを通して知ったこの村、ホーマーを通して知ったこの村の人々(ファウストーも、デュークも、オフィーリアもイライジャも)好きだ。
ホーマーのいるこの物語が好きだ。
もっともっと先の物語があったら、読み続けていられたら、いつか柵の向こうへ行けるかもしれないし、彼に自分の物語を語りたくなるかもしれない。寝て起きたら、突然ヒ―ローになっているかもしれないし。たいていは何も起こらないだろうけど。
それでも、(架空の村と知っていてもなお)どこかにあるような気がしてファラゴをさがしてみたくなる。知った顔を訪ねたくなる。