ならずものがやってくる

ならずものがやってくる

ならずものがやってくる


レコードみたいにA面とB面がある。
Aに六つ、Bに七つの短篇が収められています。
一作一作が独立した物語であると同時に、すべての物語と登場人物たちは互いに関係しあっています。


Aでは、登場人物たちがぶつかったり離れたりしながら、それぞれの人生を生きる、それぞれにとっての一場面を描いています。
一場面ではあるけれど、その前後には物語があることを感じさせるし、時には彼らの行く末をはっきりと知らされます。
あたりまえだけれど、だれもがそれぞれの紆余曲折の人生を生きている。
それだから、この一場面は(よくも悪くも、そのどちらでもなくても)二度とない大切な一瞬なのだ、となんだか切ない気持ちになる。
そして、今語られているこの物語が、すでに郷愁を帯びているように感じ、ひとりひとりの人物が、愛おしくてたまらなくなってくる。


Bの七つの短編もまた、Aでおなじみだった人々の物語です・・・が、
Aではまるでばらばらの独立した場面だったものが、ここで、ゆるやかに繋がっていきます。
場面がつながるというか・・・各自の人生が互いに影響を及ぼし合って、静かにおおきな膨らみになっていく。


ならずものってなんなのだろう、ずっとそう思っていました。その意味は、最後の最後に知らされる。
まさにならずものだ。そして、このならずものには、誰も、どうしたって勝ち目はないのだ。
勝ち目はないのだけれど、打ちのめされるばかりではないのだ、と知るのです。
ならずものがいなければ、決して知ることのなかった静かで豊かな共感が、ひたひたと満ちてくるのを感じている。