ペーパータウン

ペーパータウン (STAMP BOOKS)

ペーパータウン (STAMP BOOKS)


卒業を間近に控えたその晩、Q(クエンティ)は幼なじみの(そして密かに思いを寄せる)マーゴとともに、ハチャメチャな冒険をする。
ハチャメチャだけど、忘れ難い美しさを伴う冒険であった。
けれども、それを最後にマーゴはQの前から完璧に姿を消してしまった。
しかし、Qは気がつく。マーゴが残していった数々のサインに。彼女はQに自分を探してもらいたがっているのではないか?
頼もしい(?)親友たちとともに、Qはマーゴの足跡を探す。


一人の少女がいなくなって、彼女を中心に、物語が動き出すのです。
大好きな『アラスカを追いかけて』がここに戻ってきたような気がした。新しいラビリンスを連れて。
ホイットマンの詩集『草の葉』が素敵な働きをしてくれます。(読んだことないのです。ホイットマンの詩集。とても読みたくなりました)
他にも、食指をそそる本のタイトルが次々・・・


彼女の行方を追うことは、彼女の見せかけではない本当の姿に迫る事であった。
いったい彼女はどんな子だったのだろう、何を考えていたのだろう・・・
そして、彼女をさがすことは自分をさがすことにほかなならない、自分自身に真正面から向かい合うことだ、と知るのです。


人を、水を入れた入れ物に喩えた話が心に残っています。
中に入った水を一滴ももらさない完璧な入れ物に、ひびが入る。
ひびが入れば、もう完璧に水を漏らさないとはいえない。
ひびが入れば、そのひびから、漏れる光を外からも内からものぞくことができる・・・中身を分かりあえることができるのだ、という話。
ひびの入った入れ物は、完璧な入れ物にはない繊細な美しさがあるように思えた。


消えそうなかすかなサインの謎かけを読み解こうと奮闘するQとその仲間たちの活躍は、ミステリアスでわくわく、スピード感あふれる追いこみに、どきどきする。
その一方で、卒業を間近にした最後の高校生たちのこれかぎりの日々が、ひときわまぶしくて、何度もキュンとなるのです。
円陣のような友人同士の馬鹿騒ぎや、恋する誰かを大切に思うピュアな気持ち、親との葛藤。別れがたい少年時代と、卒業後に広がる未来への期待。まるでたくさんの小さなスナップ写真のように、一瞬一瞬が忘れ難く時間を止めるようだった。
Qのひたむきな旅を縦糸とするなら、かれをめぐる友人たちの日々は横糸。縦も横も、かけがえのない、愛おしい卒業までの旅であった。
忘れ難い卒業の物語である。