明治少年懐古

明治少年懐古 (ウェッジ文庫)

明治少年懐古 (ウェッジ文庫)


表紙に惹きつけられた。何にこんなに惹かれるのかわからないまま、この本、きっと私好きだ、と思った。
各章2〜3ページほどの中に、必ず挿入されている挿絵は木版画。そして、仮名遣いや漢字なども、旧のまま。文章のレイアウトも、まるで版木で刷られたんじゃないかと思うようなレトロな味わい深さです。
昭和19年当時から、著者の少年時代の明治を振り返って書(描)かれたものだけれど、その昭和も、振り返った明治も、どちらも、わたしには珍しい。
そして、ひとつも経験のない時代なのに、懐かしい感じがしてくるのです。著者の懐かしみが伝染したみたいに。


家族の事、友人のこと、近所の風景、学校生活、道具、食べ物、流行った遊び、流行った服、ほしかった玩具、失くした玩具の行方・・・章ごとにタイトルがついているけれど、とりとめがない。流れがあるわけではなくて、ふっつりと話題が変わったりもする。
思い出を思い出すままに語っている、という風情なのだ。
それは、近所のおじいちゃんの語りを縁側にでも腰掛けて聞いているような気分、とも言えるのだけれど・・・ちょっと違うかなあ。
この本が、まるで、手の込んだ手作り品みたいなのだもの。
手仕事の得意なおじいちゃんが、一枚一枚丁寧に書きあげてくれたもの。その一枚一枚を丁寧に綴じて一冊の本にしてくれたもの。そして、特別に手渡したい人にだけ、大切に分けてくれたもの。そんな気がする嬉しい本なのだ。
この本が手許にあることは、嬉しいというか、もったいないような、ちょっとだけ泣きたいような、やっぱりうれしい・・・そういう本。