チボー家の人々(11)1914年夏Ⅳ

チボー家の人々 (11) (白水Uブックス (48))

チボー家の人々 (11) (白水Uブックス (48))


呆然としている・・・
こうなることは覚悟していたのだけれど、まさかこんな形で、とは思わなかった。なんてこと。


パリを轟音が揺るがし、戦争が始まってしまった。
ごった返す町の中。人々の変わり身をぞっとしながら眺めていた。
反戦を謳っていた人たちが、一夜明けたら、従軍する気でいる。祭り騒ぎのようになって、理屈で戦争を肯定して。
おわりのほうでは、小さな村の子どもたちまでが、傷ついた捕虜(?)を蔑み「殺せ、殺せ」と呼ばわる。
人間たちの無責任さ・染まりやすさは、この時代だけではない。
よく似た話はどこにでもある。それが恐ろしい・・・わたしは誰の顔に一番よく似ているのだろうか。


理想も何もかもが、踏みにじられてしまった。
ああ、ジャック、ジャック。
彼の理想は高かった。彼の世界を見る目は澄み切っていて、そこに自分をささげようとする志は高かった。
けれども、高すぎたのではなかったか。高すぎて地から浮き上がってしまったのではなかったか。
あまりに容赦のないラストシーンは、愚かな人間たちの過ちの歴史をあざけっているようだ。