名医ポポタムの話

名医ポポタムの話―ショヴォー氏とルノー君のお話集〈3〉 (福音館文庫 物語)

名医ポポタムの話―ショヴォー氏とルノー君のお話集〈3〉 (福音館文庫 物語)


ルノーくんがお父さんのショヴォー氏にお話をねだる会話が楽しいが、それ以上にルノーくんによる序文がとっても素晴らしいのだ。
・・・このようにして始まるお話は、楽しい、奇想天外、次に何が起こるか予想もつかない「えええっ」という驚きがいっぱいで、実は相当ブラックなのだ。ブラックなことといったら、カチカチ山の「ばばじる」どころではないのである。
奇想天外さのランクはかなり高い。そのせいかな、びっくりするレベルを通り越して、静かに受け入れてしまう。
大変静かにお話は進むし、「えええっ」なんて声をあげたら恥ずかしくなるほどさりげなく場面は移り変わっていく。
まるで先が読めないのも嬉しい。予想を必ず裏切ってくれるのもうれしい。どきどきするのに、妙にのどかで、ほんわかとおかしい。
皮肉もたっぷり。
この展開は、大人目線ではないのかも。子どもの世界のあっけらかんとした残酷さなのかも。
この世界では、大きいものも小さいものも、みんな等しく、のびのびと(!)食ったり食われたりしている。
(人間でさえ例外ではなく、そうなのだ。気がついていないみたいだけど)
その等しさに、ブラックだけど、長閑だ、と感じるのかも。


ポポタム先生の名医ぶりには目を見張る。近隣の患者さん(どんな患者さんだと思う?)だけでなく、フランス大統領にさえ往診を依頼されるくらいなのだ。
だけど、その先に何が起こるか(起こらないか)は、だれにもわからない。どきどき。
診察をお願いするのはよく考えた方がいいと思う。


作者自筆による挿画が素晴らしい。素晴らしいというにはあまりにへんてこりんで・・・やっぱり素晴らしい。
四話めの「人食い鬼の話」で描かれた子どもの姿は鬼より怖いよ。ちょっと不気味だけどそれがいいんだよ。