短篇で読むシチリア

短篇で読むシチリア (大人の本棚)

短篇で読むシチリア (大人の本棚)


>三千年の時を越えて生き延びてきた〈物〉が伝える歴史遺産、そしてほぼ一世紀半、諦めと恐怖に翻弄されながら住民が〈沈黙〉で抵抗してきた負の遺産。だがこのふたつの間には、なにか別のものが存在しないのだろうか。
 その問いにこたえるために編んでみたのが、本書『短篇で読むシチリア』である・・・
と、編訳者あとがきに書かれている。
この短編集には、七人の作家による14の短篇が収められている。
さまざまな角度から「シチリア」の一瞬を切り取って、見せてくれた。
ごつごつと切り立った岩の大地に貼りついて生きる素朴で貧しい人々。厳格なほどの信仰心。親の威信の強さと家族の絆の強さ。ファシズムに寡黙に耐えてきた忍耐強さ。独特の意味をもつマフィアの存在もある。
そんなイメージが浮かび上がってきました。
どちらかといえば暗いはずです。でも、耐える、というイメージではなかった。もう諦めて開き直っている、そんな感じだ。
開き直ったところから別のからりとした、図太いものがやがて上ってくるのかもしれない。
この本を旅して得た、わたしの「シチリア」は、イタリアであっても、イタリアとはまるっきり違う。
同じ太陽が同じように照っているだろうに、イタリアの太陽はからりと明るいイメージだ。でも、シチリアの太陽は容赦なく照りつける、というイメージだ。(行ったことはありません。読んだものから感じたこと)


好きなのはランペドゥーザの『幼年時代の場所』でした。
孤独な子どもの観察した世界、愛した場所やもの・・・懐かしいような愛おしいような気持ちで読んだ。
作者の幼年時代の思い出を通して、自分の幼年時代の思い出が浮かび上がってくるような気がするのだ。
だれもが(別の場面で)きっとそんな瞬間を味わっていたよね。忘れていたよね。と。
編訳者あとがきによれば、この作品は『山猫』のデッサンである、とのこと。『山猫』読まなくちゃ。