狛犬の佐助 迷子の巻

狛犬の佐助 迷子の巻 (ノベルズ・エクスプレス)

狛犬の佐助 迷子の巻 (ノベルズ・エクスプレス)


伊藤遊さんの新しい本が出たと知り、読むのを楽しみにしていました。
タイトルは『狛犬の佐助』、サブタイトルは「迷子の巻」…ということは、シリーズになる予定なんですね。次の巻があるんですね。わあいわあい。


明野神社の狛犬「あ」と「うん」。
「あ」は江戸時代の終り頃の石工、名人と謳われた孫七の作。「うん」は孫七の弟子佐助が彫ったものです。
そして、この二頭の狛犬には、二人の師弟の魂がそのまま宿っているのです。150年後の現代にも。
二頭の狛犬は会話も交わすし、動いたりもするのです。
それは、本来人間には見えない・聞こえないのですが、数えで七歳になる前の子どもと、百歳を過ぎたお年寄りにだけは、見える・聞こえるのだそうです。


狛犬の親方と弟子の関係がいいのです。
弟子の佐助は、親方を心から慕っています。人情があり、人のことをどうしても放っておけない時があり、そのために時々無茶をしてしまいます。
親方は、ゆるぎなくて、名人としての風格があります。未熟な佐助を見まもる父のような慈愛を感じます。


神社はいろいろな人が行き交う場所。静かに神さまに祈りをささげる場所です。
いなくなってしまった愛犬をずっとさがしている見習い大工の孤独な青年耕作。
自分ではどうしようもない事情を他の子に笑われたことから突っ張って一人でいる幼稚園児翔太。
やんちゃな孫に手を焼く翔太のひいおばあちゃん。
妻に先立たれた寂しさを抱えて一人生きていく老紳士高橋さん。
寂しい心と心と心と・・・一体どのように折り合いをつけていくのだろうか。
彼らのあいだに、お人よしでやんちゃな狛犬が介在するのですが、物言えぬ(はずの)狛犬が、物言えぬまま、さて、どのようなからみかたができるのか。(読者としては、一方に肩入れしたら他方を傷つけることになりそうで、困っていたのだけれど。)
温かい心はどれも決して饒舌ではない。だけど静かに満たされていく。語られない言葉は、聞こえるべき人の心には無言のまま届く。
寂しさと寂しさが無言で手を差し伸べあう静かな優しさが沁みてきます。
ラストの計らいには・・・涙が出そうになった。


動かぬはずの狛犬が動きます。走ります。
ああ、なぜわたしは大人なのだろう。
くうっ、数えで七歳はとっくの昔に過ぎちゃった。次なるチャンスは100歳か。
元気で長生きして、100歳の誕生日には狛犬に会いに行こう。