パラダイス・ロスト

パラダイス・ロスト

パラダイス・ロスト


太平洋戦争参戦直前の日本で、「魔王」と異名をとる結城中佐のもと、D機関と呼ばれるスパイ組織が暗躍していた。
ジョーカー・ゲーム』『ダブル・ジョーカー』の続編です。
『ダブル・ジョーカー』でおしまいかな、と思っていたシリーズの三作目です。
図書館に予約して一年近く待ちました。やっと読めてうれしい。
前二作同様、超優秀なスパイたちの鮮やか過ぎる手並みに心は躍る。
二転三転と転がされながら、技(?)を仕掛ける当人は、その二転三転の先まで最初から見透かしていたのか、と舌を巻く。
それなのに、各短編の立役者たちはどの顔も、特筆すべき個性を残さない。
こんなにすごい一人一人なのに、たちまちD機関という集団の一側面になってしまう。さすがである。


そうはいっても、時代が時代。そして、向かうのは日本の敗戦。
各物語の底には、どんよりとした暗く重たいものが淀んでいるような気がする。
その暗さ・重さが、物語の魅力になっている。


物語のD機関は、こちら読者の心も弄ぶ。
そらそら、知りたいでしょ、本当はそれが知りたかったでしょ、と誘導し、揺さぶりをかける。
そうして、こちらをうまく乗せておいて、ゆらりと身をかわして、逃げていってしまう。
こちらには何も残らない。残らないはずなのに、その逃げかたの鮮やかさに恐れ入り、よいものを見た、という気持ちにさせる。
D機関おそるべし。


前巻でシリーズ終了か、と観念しましたが、新しい本が読めました。
だから、この続き4巻めも期待します。待っていていいんですよね。


一作目『ジョーカー・ゲーム』の感想はこちら。二作目『ダブル・ジョーカー』の感想はこちら