ルピナス探偵団の当惑

ルピナス探偵団の当惑 (創元推理文庫)

ルピナス探偵団の当惑 (創元推理文庫)



刑事の姉をもつ彩子を中心に、聖ルピナス学園に通う少女たちキリエと摩耶。そして彩子の憧れの人祀島くん。
彩子の姉(とその上司)のムチャブリで、無理矢理犯罪事件の探偵役に抜擢されてしまう四人。
ルピナス花言葉は「貪欲」と「空想」とのこと。花言葉に違わない人たちである。
短編ミステリ三篇収められていますが、三篇とも殺人事件で、仕掛けが凝っています。


物を見る角度をちょっと変えるだけで、今まで見ていたものが思いがけない形に見えてくることもあるのだ、と思うには思うのだ。すっかり読み終えてみれば、です。
でも、読んでいるあいだは、やっぱり真正面からまっすぐ眺めて首をひねるばかりだった。
変わっているのは第一話。いきなり1ページめに事件のあらましが要約されている。犯人は○○である、と堂々と書かれているからびっくり。
第三話では、入れ子の物語「瑠璃玉の耳飾り」の耽美さに心躍る。原作は尾崎翠さん!! それがなぜここに? 原作を読まなくては。


物語のおもしろさもさることながら、なんといっても登場人物たちが楽しい。
ぶっとんだ彩子の姉は別格。どちらかといえば地味な高校生ではないか、と思うけれど、不思議な存在感を持った四人です。
彼らの会話が楽しい。
ことに、同級生相手に丁寧語の彩子と、鋭い雑学王でありながら微妙に的をはずしている祀島くんとの、かみ合わない会話が好き。
実際にはあんな喋りかたする人いないだろう、と思うのだけれど、書き言葉だからこそのリアリティもあるんだな、と思う。それが一風変わった独特な雰囲気になっているのだと思います。
独特な雰囲気、といえば、三つの物語、どれにも登場する「謎の老人」!
本当に端役の端役で、彼がいなくても物語の進行が妨げられることは全然ない。だけど、いる。とりとめもなく現れる。このゆるりとした存在感がよい感じ。
魅力的な人々の集まりがつくる魅力的な世界。
携帯電話もあったにはあったがほどんどの人は持っていない、それはほんのちょっとだけ以前のことなのに、いまや懐かしい「昔」になってしまいました。そういう感慨もまた、この世界をよりいっそう魅力的に感じさせているのかもしれない。