世界が終るわけではなく

世界が終わるわけではなく (海外文学セレクション)

世界が終わるわけではなく (海外文学セレクション)


奇妙な短編集でした。
どこにでもいそうな人々、どこにでもありそうな一場面…のはずなんだけど、なんだかおかしい、地軸がほんの5度くらいズレてでもいるような違和感がある、と感じるもの。
それから、これはファンタジーなの? SFなの? と高らかに尋ねたくなるような、のっぴきならない事態を描いたもの…なんだけれど、不思議に、ほっとするような…ここでぎょっとしたら、驚いたぶんだけバカを見るぞい、と思うようなもの。
などが集まった短編集でした。


すごく遊びに満ちた本だとも思う。
連作短編というわけではない、と言いながら、各作品の主要な登場人物たちは、他の作品にも、形を変えて顔をのぞかせたりする。
全部把握しきれていないけれど、おや、この名前?この経歴?…どこかで見たことがあるなあ、と感じる。
まるで、「ウォーリーをさがせ」みたいな感じで、文章の間から、なじみの名前を見つけ出すゲームをしているよう。
テレビドラマだかゲームだかの名前やキャラクター、冗談までもが、各作品の枠を越えて結びつき合っている感じ。
そして、絶対見落としている各作品にまたがる符牒が幾つもあるに違いない。
なんだかとても賑やかだ。


一種のお祭りなんじゃないかな、と思う。
お祭りって、華やかで賑やかで、ありえないような夢を見たりもする。すごく楽しくて、同時にグロテスク。
だけど、終わってしまったら、寒々と醒めて、どうしようもない空っぽ感が漂う。さめざめと惨めで、同時にほっとしている。
この短編集には、一つの物語のなかに、お祭りの「真っ最中」と「終わったあと」とが、同時に投入されたような感じがある。


日々が、グロければグロいほど、当たり前の生活を当たり前のまま保ちたいと思う。
誰がどう考えてもつまらない、理不尽な日々であっても、きっと当人には意味があることも…あるんだろうなあ。
何が大事大事で、何が馬鹿馬鹿しいことだか、わからなくなってきたよ。
そうだ、「これで世界が終わるわけじゃないんだから」心配しないで、ひたすら些事にかまけるのも・・・いっか。