チボー家の人々(6)ラ・ソレリーナ

チボー家の人々 (6) (白水Uブックス (43))

チボー家の人々 (6) (白水Uブックス (43))


今までも感じていたシニカルな感じが、ここで、さらに強く感じられるようになった。
文章のせいだろうか、(作者としては)一切登場人物たちには感情的な関わりを持ちませんよ、と言っているような気がするくらいに、登場人物たちは突き放されているように思えました。
ことに、死を目前にした病床のチボー氏の描写は、丁寧で冷静で、その描写が、残酷に思えてしまう。
冷静というより冷笑のように感じてしまう。
怪物のようなチボー氏の弱さを人前にこんなに徹底的にさらけ出していいのか。
感情描写がリアルで、いつのまにか、未来の自分の姿、または見たくない身内の姿などを重ねて落ち込む。


行方不明のジャックがみつかった!
ジャックの現在の姿と『ラ・ソレリーナ』という入れ子の小説に、14歳の日のジャックを思い出します。
ダニエルに、将来の夢を語るジャックや、灰色のノートの中の言葉を。
そうか、やっぱりそうなったのね。とちょっと嬉しかった。


「ぼくは、ここでとても幸福だったんだ」「ぼくが幸福になるなんて――とんでもない」真逆の言葉が、一時にジャックからあふれる。
過去に立ちかえり、少年園のジャックの許にアントワーヌが面会に行った日、同じ言葉を同じようにアントワーヌにぶつけたことが蘇ってきます。
ただ、その意味はあの時とは、逆。


ジャックは変わった。変わったように見える。だけど、彼の語りを読んでいるとやっぱりジャックなのだ。
誰かと意志の疎通を図るのに、彼は、きっと喋るよりも書くほうが得意な人なのだ。嘘のつけない人なのだ。
心に浮かぶ言葉が整理できないまま、そっくりまとめて彼の中からあふれだすような語りだ。
…私は、やはり、彼が好きだ。
そしてアントワーヌは信頼できる。嫌いではない。彼を嫌ったら申し訳ない、嫌う理由がない、という理由で。


次の巻の副題は『父の死』・・・間に合うだろうかな、二人の息子。
またジェンニーやジゼールのことは・・・
スイスでジャックを待つものは・・・
ゆっくりと二人の兄弟を見守っていこう。