暗くなるまで贋作を

暗くなるまで贋作を (創元推理文庫)

暗くなるまで贋作を (創元推理文庫)


天才贋作師ジョルジュ・ルフルールの孫娘、
十代のときにはすでに祖父にその非凡な贋作の才能を見いだされたアニー・キンケイドは、今、画家兼疑似塗装師として、楽ではないものの、全うに暮らしている。
全うなのだ、地道なのだ、彼女は。
なのに、何故か、芸術がらみの犯罪との遭遇・巻き込まれ率が高いし、おまけに一癖もふたくせもありそうなくせにやたら魅力的なお兄さんたちに愛されてしまう。
だけど、彼女ってば、絵具だらけのオーバーオール姿、無造作に髪をまとめるのに絵筆なんて刺してるんだよ。お色気なんてこれっぽっちもないんだよ。
そんな彼女…やっぱり魅力的なのだ。ものすごく友だち思いで、お人よしなのだ。
おまけに、お節介で、よせばいいところに首をつっこんで、物事をややこしくする天才で。あちこちつついたものの、後始末なんて・・・あんた、してないよね?
あれ、全然ほめてないや。
・・・贋作シリーズ第三弾。やあ、アニー、また会ったね^^


イタリアの国宝で国立古典絵画館所蔵のラファエロの名作が贋作らしい、との疑いが浮上する。何故か、カリフォルニアの辺鄙な納骨堂に真作があるらしい。
そして、何故か、そこは、今回、アニーのお仕事場であった。
そしてそして、真贋を確かめるより何より、あるはずのラファエロそのものがない!(どこいったんだ?)
そしてそしてそして、死体! 発見者はもちろんアニーである。
おなじみの仲間たち(騒々しいのや色っぽいのや)がぞろぞろと登場、そして、アニーを死ぬほど心配させるジョルジュおじいちゃんの能天気ぶりもおなじみ。
そのうえ、今度は凄腕の贋作撲滅師まで現れて、役者は、ますます充実しています。
一番哀れなのはアニーの恋人ジョシュ。彼は最初から最後まで電話やメールの着信のみの登場。巻頭の登場人物紹介のページにも出してもらえません。
まがりなりにもヒロインの恋人というのに、なんてかわいそうなんだ。


それにしても本当に騒々しい。そして、なんてよく動き回る主人公なのだろう。
読んでいるだけで息がきれそうになる。
スローモーションの背景の中で、彼女だけが軽やかに高速移動しているよう…だけれど、その動きに首をかしげたくなる。
動きが早ければ、ストーリー展開が早い、というわけではありません。
物語の半分は「無駄口」だと思って間違いない。この大いなる無駄口の砂山に、小さな物語の本筋が混ざっている、という感じ。
そして、たぶん、この無駄口の楽しさがこのシリーズの最大の魅力なのだろう。


アニーは、能天気おじいちゃんの動向にずっとはらはらしている。それは、まるで、親が子を心配するような感じで。
だけど、危機一髪、四面楚歌のときに、彼女は、いつもおじいちゃんの言葉を思い出す。頼りにする。おじいちゃんだったら、こんな時になんて言うだろうかって。
実際、ひょうひょうとしたおじいちゃんだけれど、その言葉はやたら鋭かったり、大胆だったり。
やっぱりインターポールを煙に巻く世紀の天才贋作師はただものではない。
そして、遠く離れてもなお強く結ばれた祖父と孫娘の絆に、ほのぼの。


さて、シリーズも三作目となり、新たな局面が開けてきたよう。
訳者あとがきによれば、このあとの四作目が一番おもしろい、とか? そんなこと言われたら期待しないではいられないではないか。
四巻でまた会いましょうね、アニー。