ミナの物語

ミナの物語

ミナの物語


《喜ぶために生まれた鳥が、籠に閉じこめられて、どうして歌うことができるというのか?》
ウィリアム・ブレイクの詩をミナがうたう。
ミナの中にはヒバリがいる。ミナのヒバリは、ミナの肉体の中におさまってはいない。
ミナは感じる。感じる。この世の不思議を。この世に生きるという奇跡を。
感じたままに自由に素直に、ミナは綴る。ときには一文字だけ。ときには文字をびっしり埋めた物語。
ときには白紙。(未来への可能性で埋まった白紙!)
ああ、嬉しい、嬉しい・・・この物語を読むのはこんなに嬉しくて、こんなにどきどきする。
こんなにせつなくて、不思議で、そして、やっぱり嬉しい。生きて、心臓が動いて、そして、ここにいる自分が。


ミナという少女はこんなに輝いている。
デイヴィッド・アーモンドは、どんなに愛おしい思いを込めて、この少女をこの世に誕生させたのだろう。
どんなに大切にこの少女をこの世に送り出したのだろう。


だけど、そんなミナであっても、集団の中に入ると途端に「変わり者」になってしまう。
学校という入れものを「籠」に例えたミナ。
だけど、もしかしたら、学校を籠にしてしまったのは、自分自身でもあるのだ。
そして、その籠から自分を解き放つことができるのも自分だけなのだ。
ミナ、ほかならぬあなた自身が籠だったのかもしれない。
素晴らしいもの、よきものを閉じ込めた籠。臆病さが作り出した籠。


この物語は、ミナという籠を開けて、ミナの中のヒバリを空高く解き放つ物語だ。
解き放つ、ということはなんと不思議なことだろう。空の高みもまた、ミナのなかにあったのだろうか。
ミナ、あなたのなかにはヒバリがいる。
あなたのヒバリは、もろいけれど、弱くない。空の高みに力いっぱい上り、力いっぱいうたう。

>自分の胸の内にいる、もろくて力強いものの声を聞け。
・・・もろくて力強いもの。それがミナのヒバリ。


ミナ、ミナ・・・手を伸ばして、あなたに触りたい。
小さなミナ、臆病で(だったけど)とっても勇敢なミナ――


世界を見てごらん。においを嗅いで、味わって、耳をすまして、感じて、よく見る。ようく見るんだよ! この世界で、善なる理由なんてこれっぽっちもない、信じられないほど恐ろしいことがたくさん起きているのは、あたしも知ってる。なぜ、とうさんは死んだの? 飢えや、恐怖や、心の闇や、戦争があるのはなぜ? わからない! あたしはほんの子どもだから、ぜんぜんわからない。そういういろいろな疑問の答って、どうすればわかるんだろう? でも、この恐ろしい世界はとってもきれいで、とてつもなく不思議。ときどき気が遠くなってしまいそうになるくらい!

↑最後の二文に二重下線をひきたい。
ミナ、あなたは探検家だ。恐ろしくて美しい世界を探検する探検家だ。
そして、ミナ、あなたはきっと、わたしのなかにも、他の人たちの中にもいる。
私の中のミナ、あなたに出会えたことが嬉しい。
(だけど、ミナといっしょに探検に乗り出すのに一番相応しいのはきっとひとりぼっちのティーンエイジャーだ。どうかこの本が必要な人の手に渡りますように)


ミナたちの次の物語は、すでにゆっくりと始まっている。
『肩甲骨は翼の名残り』が、ミナの物語にすでに流れ込んできている。
ミナ自身にも、そして「あの子」にも、思いもよらない美しい物語が、ほら、もう始まっている。