11月の読書

2012年11月の読書メーター
読んだ本の数:22冊
読んだページ数:6046ページ

チボー家の人々 (4) (白水Uブックス (41))チボー家の人々 (4) (白水Uブックス (41))感想
アントワーヌの恋の顛末が圧巻だった。打たれ慣れていないアントワーヌがこれからどうなるのか。イルシュとは似ても似つかぬジェロームに似たような魔力を感じる。フォンタナン夫人もラシェルも哀れだ。育ってきた過程が真逆のジャックとジェンニー、似ているように見えるだけでは? 二人が深く傷つかなければいいなあ.
読了日:11月29日 著者:ロジェ・マルタン・デュ・ガール
千曲川のスケッチ (岩波文庫)千曲川のスケッチ (岩波文庫)感想
土地の人間であれば決して無いだろうな、と思うような余所者の物の見方、だけど、物見高い、というのとは違う、人々への敬意の籠った文章は美しいながら素朴で、皮肉なところが一つもない。それが、沁み入るような温かさになっている。何度も繰り返し読みたい本の一冊になった。
読了日:11月27日 著者:島崎 藤村
心にトゲ刺す200の花束―究極のペシミズム箴言集心にトゲ刺す200の花束―究極のペシミズム箴言集感想
悲観的だったり、シニカルだったり、の箴言集。だけど、その言葉には、ユーモアがたっぷり混ぜ込んであるのだ。くすっと笑って、上手いこと言うなあ、と感心して、ああ、自分の弱みを笑い飛ばせるって、結構快感じゃないの、と思う。さらに、立ち直りを期待される激励や叱咤と違って、何も求めない言葉はさばさばとして気持ちがいい。
読了日:11月24日 著者:エリック マーカス
立原道造  鮎の歌 (大人の本棚)立原道造 鮎の歌 (大人の本棚)感想
彼は恋をする。詩は甘く美しい。だけど、彼が愛していたのはもしかしたら自分自身だったのではないだろうか。彼はいつもひとりぼっち。だけど、彼の世界は充たされている。それはきっと寂しくないことよりも大切なものなんだね。こんな詩を書く立原道造には、もしかしたら、生身の恋など必要なかったのかも…
読了日:11月24日 著者:立原 道造
サラスの旅 (-)サラスの旅 (-)感想
旅をしながら、彼女のまわりから、いろいろなものが、はがれて消えていくようだ。何もかも失くしたら、ただのぬけがらになってしまうのだろうか。そんなことはない。彼女の求める理想郷が彼女の中に残ったような気がする。新たに本物のホリーが生まれる。そんなイメージを思い描いている。これがきっとほんとうの誕生の日なのだ。
読了日:11月23日 著者:シヴォーン ダウド
チボー家の人々 (3) (白水Uブックス (40))チボー家の人々 (3) (白水Uブックス (40))感想
主だった登場人物たち、みな恋をしている。この巻の副題は「美しい季節」だけど、このまますんなりと上手くいきそうなカップルがまるっきり見当たらないし。これで「美しい季節」かなあ。まるっきり逆に見える父とジャックは、自分の感情に正直であるという点で皮肉にも似ている。たった三人のチボー、何と寒々とした間柄。
読了日:11月22日 著者:ロジェ・マルタン・デュ・ガール
話してあげて、戦や王さま、象の話を話してあげて、戦や王さま、象の話を感想
16世紀初頭のイスタンブル。いかがわしくて魅惑的な町。でも人にも事件にも感情移入して読む、という感じではない。何もかもが、靄の向こうにあるようで、人も建物も等しくイスタンブルという町が持つ様々な側面の一つでしかないような気がする。不思議な雰囲気、不思議な香り。まるでシェヘラザードが語った千夜一夜物語のようだ。
読了日:11月21日 著者:マティアス・エナール
夕べの雲 (講談社文芸文庫)夕べの雲 (講談社文芸文庫)感想
大浦家の日々を読みながら、懐かしいと思うとともに、憧れるような気持ちにもなっていた。それは大浦家が暮らす環境ではなくて、時代でもなくて、あるものをあるがままに受け入れる、心の余裕であり豊かさなのだ。これだけあればお大尽でいられるんだなあ、と。この本を読んだだけでお大尽な気持ちになれるなあ、と。そう思った。
読了日:11月19日 著者:庄野 潤三
スワン・ソング〈下〉 (福武文庫)スワン・ソング〈下〉 (福武文庫)感想
モーリス・ドリュオンの『みどりのゆび』を思い出しました。最後に、心から求めていたのはこれだったのだ、と思う光をシャワーのように浴びていました。震えるような気持ちでページを閉じる。長い長い物語だった。あの人ともこの人ともずっと一緒に旅をしていた。道連れだった。本を閉じながら、名残惜しい気持ちでいっぱい。
読了日:11月18日 著者:ロバート・R. マキャモン
スワン・ソング〈上〉 (福武文庫)スワン・ソング〈上〉 (福武文庫)感想
第三次大戦後のアメリカ。暗くて寒くて怖ろしい。おぞましい場面の連続で、吐き気がする。めげぞうになる。私、よくもまあ、こんなの読んでるよ、とあきれる。だけどね、ちらちら見える澄んだ美しいもの。あれがいったい何なのか、どうなるのか、ほうっておくわけにはいかないのだ。追いかけて下巻に進みます。
読了日:11月16日 著者:ロバート・R. マキャモン
夜の小学校で夜の小学校で感想
夜の空気はそれだけで魔法なのかもしれない。夜の小学校と昼間の小学校と、どちらが本当の小学校の姿なのだろうか、と考える。きっとどちらも本当の姿なんだよね、とすでに胸にこたえはあるのだけれど。こんなにも違って見える顔がおもしろい。この本の主人公は夜ではないかな。読み終えて、静かにこの本を抱きしめたくなった。
読了日:11月15日 著者:岡田 淳
黄昏に眠る秋 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)黄昏に眠る秋 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)感想
寂れた島の陰鬱な秋。華やぎがないからこそ、決して変わらずにあり続ける物も見えてくる。この翳りは、人を突き放すものではない。闇に向かいあうことから、見出されるものがある。大切なものを大切に守り続ける翳もあるのだろう。これから冬に向かうのだな。北欧の冬。闇は深いけれど…きっと、暗いばかりでもないはずと信じています。
読了日:11月14日 著者:ヨハン テオリン
終わりと始まり終わりと始まり感想
やさしい言葉だけれど曖昧ではない。小難しい言葉より強い。味わうというより、拠って立つという言葉のほうが相応しい詩集のような気がする。『詩の好きな人もいる』『現実』『様々な出来事の一つの解釈』が特に心に残る。池澤夏樹さんのあの本『春を恨んだりはしない』の影響もあり、気がつくと、震災後の暮らしと重ねています。
読了日:11月11日 著者:ヴィスワヴァ・シンボルスカ
チボー家の人々 (2) (白水Uブックス (39))チボー家の人々 (2) (白水Uブックス (39))感想
一年が過ぎていた。ダニエルの変貌に比べたら、ジャックはむしろ「変わらない」のかもしれない。一年間の牢獄生活が、彼を14才のままにして、時を止めてしまったようにも感じられた。今、むさぼるように本を読んでいる彼。才能の行方も気にかかる。少年たちは恋をして、お互いの性格、理想、価値観までが遠く離れてしまったことを知る。
読了日:11月10日 著者:ロジェ・マルタン・デュ・ガール
ハンナの記憶 I may forgive youハンナの記憶 I may forgive you感想
交換日記の少女たちの微妙にズレた文章の、どこをどう修正したらよいかわからない歯がゆさが、現在の自分のようだ。反射のようにわかったと思うのは怖い。時間をかけてゆっくりわかってくることを大切にしたい。埋もれた記憶を掘り起こす主人公を追いながら、記憶している、というところからしか何も始まらないのだ、と確認する。
読了日:11月9日 著者:長江 優子
ひぐれのラッパ (福音館創作童話シリーズ)ひぐれのラッパ (福音館創作童話シリーズ)感想
取り返しのつかない思いが残る物語ばかりで、本当はちっとも幸せじゃないはずなのに、いいなあ、と思う。この童話集が、持っていき場のない思いや空っぽ感に、あたりさわりのない言葉で慰めたり、ごまかしたりはしないからだ、と思う。こういう風に、こういう処におさめる方法もあるんだ、としみじみ知った。美しかった。
読了日:11月7日 著者:安房直子
ひぐれのお客 (福音館創作童話シリーズ)ひぐれのお客 (福音館創作童話シリーズ)感想
怖い話も暗い話も、寂しい話もあったのに、失くしてしまった者にまた会えたような懐かしさを感じて嬉しかった。好きなのは、『初雪のふる日』 このお話を絵にするなら、ただもう真っ白。色のない世界に、女の子の体温とリズミカルな動きが、明るく浮き上がるイメージです。
読了日:11月7日 著者:安房直子
イスラム飲酒紀行イスラム飲酒紀行感想
禁酒の国にもあるところにはある。酒を求めて何千里の果てに見えてくるタテマエとは別の人々の姿。彼らの懐に飛び込まなければ酒は得られなかった。酒が得られなければ、普通の人々の普通の顔も見られなかったかも。酒はよいよい。ほどほどに飲むのはよいよい。だけど、悪いことは言いませんから、著者様、ぜひとも休肝日を〜。
読了日:11月6日 著者:高野 秀行
エドワード・アーディゾーニ 友へのスケッチエドワード・アーディゾーニ 友へのスケッチ感想
クスッと笑ってしまうユーモア、受け取り手への愛情のこもった手紙を満喫しつつ、気になって仕方がないのは、訳者あとがきに書かれていた、テイラーさんのお家を訪問したときのこと。「…お家中の壁を埋め尽くしたアーディゾーニやシェパードの原画…」とあるのだ。なんということ。用がなくても、ぜひとも訪問したいお家ではないか。
読了日:11月5日 著者:エドワード アーディゾーニ
チボー家の人々 (1) (白水Uブックス (38))チボー家の人々 (1) (白水Uブックス (38))感想
ノートに綴られた二人の少年の若さ、純粋さが眩しい。気恥ずかしいくらいに青臭い憧れを、真摯に語りあえたこと、共感し合えたこと、高め合おうという思いがあったことをかけがえなく思う。これを邪にしか受け取れない指導者たちの薄汚さは気分が悪くなる。苦い方向に変化を強いられた二人は、これからどう成長していくのだろう。
読了日:11月4日 著者:ロジェ・マルタン・デュ・ガール
雪と珊瑚と雪と珊瑚と感想
そうか、人との関係は、料理に似ている。料理したものを味わうことに似ている。この物語は閉じていない。いろいろな要素をからめつつ、いつでも、何にでも変われる要素をたくさん残している。『ミケルの庭』で最後に、ミケルが伸ばした手が、この物語の最後の雪の言葉に繋がっているような気がした。心も体も満たされていく…
読了日:11月2日 著者:梨木 香歩
こんちき号北極探検記 ホッキョクグマを求めて3000キロこんちき号北極探検記 ホッキョクグマを求めて3000キロ感想
それにしても、北極。こんなに簡単にほいっと行けるのか。ほいっと、と思ったのは、アムンゼンなんかを思いだしているからだ。命知らずの猛者たちが決死の覚悟で挑む、闇と氷の世界ではないのか。あべ弘士さんを通して見る北極はなんだかイメージがちがう。なんて賑やかなんだろう。北極はこんなにも命の活気に満ちた世界だった。
読了日:11月1日 著者:あべ 弘士

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