- 作者: ロジェ・マルタン・デュ・ガール,山内義雄
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1984/01/01
- メディア: 新書
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アントワーヌの恋の顛末が、この巻では圧巻だった。
ラシェルの数奇なこれまでの道のりと、実直に現在の地位を築き上げてきたアントワーヌの道のりと…
最初から似あわない二人ではあった。
イルシュの怖ろしい魔力。引きずられてしまう(それしかないんだね)ラシェルが悲しかった。
ただただ悲しかった。
一方、打たれ慣れていないアントワーヌは、この先どうなっていくのだろうか。それも気にかかる。
イルシュとラシェルの関係から、何か似ているような気がして、思い浮かべるのはフォンタナン夫妻。
どう考えても放り出すしかないじゃないの、あんな甘ったれ、と思うのだがそれができないフォンタナン夫人。
彼女の優しさ、信仰、というだけでは説明できない・・・
イルシュとは似ても似つかないジェロームから、どこか似た匂いを感じてしまう。
やはり、魔力が潜んでいる。
(それにしてもジェロームのあの能天気さ、凝りなさったら・・・もう・・・)
男のせいで、急坂を転げ落ちるように落ちていく女性たちが、この作品には次から次へと現れる。
リネットも。ノエミも。
まるで、炎に、踊りながら近づいていく蛾のようで、見ていられない。
そういえば、ジャックとジェンニーの間柄は、アントワーヌとラシェルの関係に似ている。
だれにも愛されず理解されずにここまできたジャックと、大切にされ愛情いっぱいに育った素直なジェンニーと。
二人は似ている、というけれど、ほんとうだろうか。ほんとうに似ている、といっていいのだろうか。
そういうふうに見えるだけなんじゃないだろうか。
ジェンニーが本当にジャックを理解できるとは思えないのだけれど。
静かに静かに、不器用に近づいていく二人、精神的な気高さを求める二人が深く傷つかなければいいなあ、と思う。