サラスの旅

サラスの旅 (-)

サラスの旅 (-)


14才のホリー・ホーガン、ママに置いて行かれた幼い日に保護されて、以後児童養護施設で育った。
彼女は、ほとんどの大人たちを見限って突っ張っている。


ホリーは、ずっとママを求めていた。
ママはアイルランドにいる。ママは自分を探している。ママは自分を待っている。
小出しに語られるホリーのママの思い出は、ホリーによって理想化されつつも、しきれていない。
読んでいて切なくなる。
大切になんてされていなかったのだろう。
それでも、14才の娘は、ただひたすらにママに焦がれる。こんなにも・・・。
子にとって母というものは・・・


ホリーは、里親の家でみつけた金髪のウィッグを身につけて、理想のゴージャス・ガール、サラスとなって、家出する。
ヒッチハイクをしながら、アイルランドに向かうのだ。
ママに会うために。


彼女は…例えていえば、殻の厚い卵の中に籠った瑞々しい命だ。
彼女を卵の中に閉じ込めているのは彼女自身だ。
彼女のまわりには殻がある。
金髪のウィッグ。サラスという名前。母の残した指輪。美化された思い出。
それらに「ウソの身の上話」を繋ぎにして、自分のまわりに厚い殻を作っていく。
他人をだます嘘、そして自分をだます嘘。嘘でしか、外の世界から自分を守る方法を知らなかったのだ。
世界は信じられる場所ではなかった。彼女はなんて臆病なのだろう。繊細なのだろう。


彼女は旅を続ける。
力技(周囲の物みななぎ倒すような一途なエネルギー)で、ひたむきに進む道、自分の力で切り開く旅の過程で、
彼女は少しずつひび割れ、身につける大切なものを失くしていく。
彼女がよりどころにしてきた「嘘」さえも失くす。
まるで、彼女のまわりから、いろいろなものが、はがれて消えていくようだ。
何もかも失くしたら、ただのぬけがらになってしまうのだろうか。
彼女は理想郷を求めていた。
彼女の理想郷はいったいどこにあったのだろうか。
彼女の中に。彼女の芯に。そんな気がするのだけれど。
彼女の旅の目的地は自分自身だったのだ・・・。


まるで、卵の殻が割れて、中から新たに本物のホリーが生まれる。そんなイメージを思い描いている。
その日が彼女の誕生日だった、ということも意味深い。そう、これがきっとほんとうの誕生の日なのだ。