エドワード・アーディゾーニ 友へのスケッチ

エドワード・アーディゾーニ 友へのスケッチ

エドワード・アーディゾーニ 友へのスケッチ


絵本作家エドワード・アーディゾーニが友人や家族に送った手紙を集めた本です。
手紙、というよりも、スケッチに短い言葉を添えた絵手紙(?)の束なのです。


一枚ずつ見ていくと、わくわくする。
個人的なスケッチは、タッチも大胆で、絵本のような完成度がないかわりに、
人や空気の動きが、肌に伝わってくるような、さっくばらんさ、親しみがあります。
手紙を受け取る人とアーディゾーニ本人との間だけに伝わる何か――見えないウィンクを交わしているような気がするのです。
どの手紙にもたくさんのユーモアが仕込まれていて、読みながらクスクス笑って、笑いながらちょっとだけ感動している。
だって、この手紙を受け取る人たちが、どんなに愛されているか伝わってくるのだもの。
ことに妻、子どもたち、孫たちに、旅先から(または従軍中に)送った手紙が好きだった。
外国の愉快な出来事や風習をおもしろおかしく伝える手紙は子どもたちに。
戦争の悲惨は(でも、ユーモアのオブラートに包んで)妻だけに。


たとえば、こんな手紙。
すっかりおじいちゃんになったアーディゾーニが娘に送った手紙。
大きなベッドに、大きなおじいちゃんとちっちゃな孫が、枕を並べてすわっている絵。
孫はおじいちゃんの方を見ながら本を広げている。
おじいちゃんはそっぽを向いて新聞を広げている。
添えられた言葉はこうです。

「ダニエルは、ベッドのなかで、おいいちゃんのとなりにすわって、『チムききいっぱつ』を読んでくれているらしいのですが、こちらは必死で「タイムス」を読もうとしています。」
だから、他の手紙の内容も、おして知るべしの楽しさ。でしょ?^^


日記(絵日記、スケッチ日記?)では、「船上の休日日記」が好き。
ボートを借りて川を下りながら過ごす日々は、家族版『ボートの三人男』といった感じののどかさ。
またはバーニンガムの絵本『ガンピーさんのふなあそび』を思い出したり。
こんなにのんびりとした船上の休暇を過ごせるなんて、羨ましい。
あっさり描かれた川岸の風景もよい。ああ、風が吹いている。ときにはどしゃぶりにあっても、それも御愛嬌。
家族で過ごす休暇の喜びが絵に滲んでいる。


すばらしい手紙を満喫しつつ、一方で、気になって仕方がないのは、編者ジュディ・テイラーさんの「はじめに」の中の一文
「彼(アーディゾーニ)の義弟の描いたあの魅力的な伝記は絶版になっており、再版の見通しもない・・・」
そんなこと言われたら、その伝記がどんなものなのか見たくて見たくてため息が出てしまう。…絶版なのかぁ。
それからもう一つ心に残るのは訳者あとがきの、テイラーさんのお家を訪問したときのこと、
「…お家中の壁を埋め尽くしたアーディゾーニやシェパードの原画…」
とあるのだ。なんということ。用がなくても、ぜひとも訪問したいお家ではないか。