南から来た男

南から来た男 ホラー短編集2 (岩波少年文庫)

南から来た男 ホラー短編集2 (岩波少年文庫)


一昨年の『八月の暑さの中で』*に続く、金原瑞人さん編訳の「ホラー短編集」二冊目。
「待ってました」と「いつの間に出ていたの?」が混じった気持ちで手にとりました。
ホラーと一言で言うけれど、各作品こんなにバラエティに富んだ世界を持っている。
ただ怖い、というのじゃない、むしろ、「いいもの(おもしろいもの)読んだ」という満足感とともに読み終われる、奥行きのある作品ばかり。
それは『八月の暑さの中で』といっしょです。


ゆっくり味わうホラー。
怖さも、ひたひたと感慨深く(?)やってくる。
怖い話ではあるが、怖さの補色になって表れる美しい光がちらちらと気になって、そちらのほうが印象に残るようなもの。
または、ホラーというよりむしろ幻想小説かな、と思うもの。
美しく切ない話を読んだ…はずなのに、あとからじわーっと恐ろしさが滲み出てくるもの。
寓話的で、むしろ哲学的かと思うような深みのあるもの。
どの作品も「味わい深い」の一言では片付けられないものを持っています。
こんなホラーなら、もっと読みたい。三冊めもぜひ、とすでに期待している。


印象的なのは…
レイ・ブラッドベリの「湖」(夏が終わる最初の気配。その言葉に尽きる。ブラッドベリ大好きな理由がぎゅっと詰まっている感じ。)
ウィリアム・フォークナーの「エミリーにバラを一輪」(美しさと醜悪さは紙一重、狭間に漂うやるせなさ、悲しさ。さまざまな気配が縒り合わさったような余韻がたまらない)
H・G・ウェルズの「マジックショップ」(まだ続いている。物語から出られていない。…何だかわからない何かが続いている)
ウォルター・デ・ラ・メアの「不思議な話」(ダメと言われるとブレーキが利かなくなる人のサガを手玉に取られ、もてあそばれ。でもとても美しい、逆らえない)
ロバート・ルイス・スティーブンソンの「小瓶の悪魔」(考え出すときりがない。瓶の形が人の姿に思えてくる)


今度の本は、別の訳で読んだことのある名作がいくつもありました。(複数の短編集に収録されている)
でも、そこは金原瑞人さん…(あとがきもよいです。)よく知られた名作だからこそ、こんな味わい方もあるのだよ、というところを見せてくれます。
たとえ粗筋を覚えていてもそれがなんだろう。充分以上に楽しい。おもしろい。堪能しました。