9月の読書

2012年9月の読書メーター
読んだ本の数:18冊
読んだページ数:3724ページ

懐手して宇宙見物 (大人の本棚)懐手して宇宙見物 (大人の本棚)感想
文学・科学両方を極めた人の文章は、「文学的」といっても、何か一味ちがうのである。一言でいえば…ああ、そうだ「好きなもの イチゴ珈琲花美人 懐手して宇宙見物」の感じである。漱石の思い出、どんぐりのせつなさ、子どもの鋭い感性のつまったあどけない言葉、暗がりに浮かぶ光のような盆踊り、そして、沢山の草木の話など、心に残る。
読了日:9月28日 著者:寺田 寅彦
園芸家12カ月 (中公文庫)園芸家12カ月 (中公文庫)感想
園芸家恐るべし。でも、労して咲かせた花をめでるよりも、労して作った土の匂いをほれぼれと吸いこむ姿がかわいかったり。あげくのはてには、精根傾けた庭を、自分ではちっとも眺める暇がない、と。ビバ園芸家^^ 自然の思いがけない仕事に接する驚きが、みずみずしく描写された部分も好き。もっと読みたいなあ。
読了日:9月26日 著者:カレル チャペック
父と息子のフィルム・クラブ父と息子のフィルム・クラブ感想
映画は、たまたま父が持っていた、使いこなされた道具(?)だった。父親が子に自分の人生観、息子への愛や信頼を伝える為の。(別の親子には、また別の道具があるに違いない、と思う)父は息子の問いかけに、懸命に答える「おまえは素晴らしい人生を送れるさ。絶対に送れるとも」「(ぼくって才能あるかな、に答えて)何トンもあるさ」心に沁みた。
読了日:9月24日 著者:デヴィッド ギルモア
あさになったのでまどをあけますよあさになったのでまどをあけますよ感想
「きみのまちははれてるかな?」と呼びかける。朝、窓を開けている地球の上の人たちへの挨拶。遠くから同じ問いかけが、挨拶になって、この窓辺にも届く。「わたしは(ぼくは)ここがすき」と答える。繰り返す日常。だけど、この窓から見えるものは、今ここにいることの喜びと、誰かと繋がっている不思議と、これから始まる一日への期待・希望。
読了日:9月23日 著者:荒井 良二
まるごと一冊! 東京の地名の由来まるごと一冊! 東京の地名の由来感想
大きすぎず小さすぎず、持ち歩くにはちょうど良いサイズ。「これを持って散歩しておいで」と誘いかける。この本は、その地名の由来を知る、入り口なのだ、と思います。興味を持てたなら、この先に分け入ってどんどん入っていきなさい、という。他の地の由来なども知りたくなってくる。楽しいね、地名の由来を尋ねる散策。
読了日:9月20日 著者:ユーキャン東京の地名の由来研究会
ひろしまひろしま感想
多くの遺品のなかでも、幼い少女たちの服が、ことに目に焼きつけられる。焼けて、引き裂かれて、黒い沁みに汚されて、変形してもなお、その服はかわいらしい、美しい。これらの服を身に付けた少女たちの弾けるような笑顔が見える。どんなにしても帰ってはこない人たちの残した、声のない声を、せめて、大切に読んでいく。
読了日:9月19日 著者:
森の奥へ森の奥へ感想
人の心の中にも、暗い「森」があるのではないか。安易に覗くことも踏み込むこともできず、適当にごまかして暮らしてきた「森」 人が忘れていても、森は決して忘れない。飼いならされもしない。人は、森から離れることはできないのではないか。できることは、そこに「森」がある、と認めることだけなのかもしれない。
読了日:9月18日 著者:ベンジャミン パーシー
楽園のカンヴァス楽園のカンヴァス感想
二人の研究者の対決(?)を見守りながら、絵は見るのではない、読むのだ、と感じた。真贋の判定…それは一体何ほどの意味があるだろうか。問われるべきはひとつ。――おまえはそれを愛するか。どれほどに愛するか。淡いロマンスと郷愁がふわっと覆った独特の雰囲気が心地よい。ここまでまっすぐに向かい合える世界を持った人々が羨ましい。
読了日:9月16日 著者:原田 マハ
ソロモンの指環―動物行動学入門 (ハヤカワ文庫NF)ソロモンの指環―動物行動学入門 (ハヤカワ文庫NF)感想
各動物固有の行動の意味、言葉(相手に自分の意志を伝達する方法)を知ることで、人間と動物との間に、どんなに細やかな気持ちの「通い合い」が実現するか、ということを知り、すごく楽しかった。そして、人には人の、動物には動物の、それぞれルールがあり、仁義(?)がある。自分の物差しだけが物差しではないのだね。
読了日:9月14日 著者:コンラート ローレンツ
草は歌っている草は歌っている感想
彼女と夫の最後の日々が、まるでアフリカという土地からの復讐のようにも思える。全ての理想と夢物語とを足もとから崩し去る。タイトル『草は歌っている』は荒地で風が鳴らす音。決して牧歌的なんかではない。でも、その自然は、圧倒的な力強さと、容易に人を寄せ付けない美しさとで、迫ってくる。忘れられない光景になる。
読了日:9月13日 著者:ドリス レッシング
魔法の泉への道魔法の泉への道感想
一歩一歩、また一歩、と励ましながら読んでいたはずなのに、いつのまにか、こちらが声をかけられ、励まされているような気がしてきた。足もとだけを見ながらただ次の一歩だけを考えて、もくもくと歩を進めてきた少年は、いつの間にか、驚くほど遠くまで歩いていた。さらに次の一歩を踏み出そうとしている。
読了日:9月11日 著者:リンダ・スー パーク
さよなら駐車妖精 (創元推理文庫)さよなら駐車妖精 (創元推理文庫)感想
妖精って、いったい何? 「幸運をもたらす小さな目に見えない生き物」というけれど、ほんとにそれは良いものか? 一種の突出した個性のようなもの、かもしれない。仲良くお付き合いしながら、あるいはもてあましながら、いつか、その存在が「気にならない」と思えるようになったら、もしかしたら、それが成長かもしれないね。
読了日:9月9日 著者:ジャスティーン・ラーバレスティア
異邦人 (新潮文庫)異邦人 (新潮文庫)感想
人が集団になったとき、抑えなければならない真実・善もあるのかもしれない。それが当たり前になってしまって、抑えているものを忘れてしまうのかもしれない。忘れたいのかも。真実を曲げているのだ、という事実を。「不感無覚を前にして感ずる恐ろしさ」ではなくて「曲げた大切なものを思い出させられる恐ろしさ」なのかもしれない。
読了日:9月6日 著者:カミュ
デニーロ・ゲーム (エクス・リブリス)デニーロ・ゲーム (エクス・リブリス)感想
カミュの『異邦人』とリンクする後半が辛い。命がけで掴んだものが、冷たく、無関心に主人公を迎える。居場所はないのだろうか。置いてきたのは、内戦の町。怖ろしいゲームが、人々の運命を簡単に引きちぎって行く。だから…本来顔をそむけたくなるような彼らの青春が、きわどい綱渡りが、不思議な輝きを帯びた命となって蘇ってくる。
読了日:9月5日 著者:ラウィ ハージ
お父さん、牛になる (福音館創作童話シリーズ)お父さん、牛になる (福音館創作童話シリーズ)感想
「日曜日の朝、お父さんが牛になっていた」 楽しい物語が始まった。と、思った。だけど、これは、かなり深刻な話ではないか。誰にも感謝されず繰り返される日々の「当たり前」。牛になりたい、と思うこともあるかもしれない。おばあちゃん素敵。嫁は永遠に勝てないよ。このあとは?どうする?おかあさん。ドキドキしながら考える。
読了日:9月3日 著者:晴居彗星
第五福竜丸から「3.11」後へ――被爆者大石又七の旅路 (岩波ブックレット)第五福竜丸から「3.11」後へ――被爆者大石又七の旅路 (岩波ブックレット)感想
そうだったんだ…この事件は一つも決着がつかないまま、被爆者たちともども、うやむやに葬り去られてしまったんじゃないか。先に読んだ絵本『これが家だ』のなかの「けれど わすれるのを じっと まっている ひとたちもいる」という一文がよみがえってくる。
読了日:9月2日 著者:小沢 節子
ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸感想
読み手の胸にまで刻み込まれる力強い絵。添えられたビナードさんの言葉は、極力抑え込まれているようだ。絵と言葉とが、圧倒的な盛り上がりになって迫ってくるのは、ここ。「太陽がのぼるぞぉー!」この本は終末の始まりを語る怖ろしい神話のよう。…そして今。私たちの家は一体どこに向かっているのだろう。
読了日:9月2日 著者:アーサー・ビナード
それでも人生にイエスと言うそれでも人生にイエスと言う感想
「それでも」の「それ」は、個人個人で違うだろう。とりわけて、著者は強制収容所という「それ」がありながら、「それでも」と言っているのだ。そのイエスの重さ、明るさ。まだまだ、わたしには「イエス」を自分の言葉として口ににするには早すぎる。それでも、いつか「イエス」と言えるようになりたい。
読了日:9月1日 著者:V.E. フランクル

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